裏切り者

十一月十五日(金)陰一時雨
今どきはどんな業種でもさうなのだらうが、會社には中途で競合他社から入つて來る者もあれば出て之く者もある。余は大學卒業以來一貫して今の會社に居る訳で、其れだけでも古風な勤め人に屬するのかも知れぬ。だからといふ訳でもないだらうが、自分の會社を辞めて他社に走つた人々を裏切者としてしか見られぬし、正直嫌ひである。二度と顔も見たくないと思つてゐる。ところが、同僚の多くは同じやうには思はぬらしく、出て行つた者と飲み食ひをしたり、一緒に遊びに行く者まである。業界の情報交換ないし、同業者同士の交歓と言へば聞こえはいいが、余に言はせれば此れもまた一個の裏切りである。余が最も憎むのは、途中で他社から入つて來た後再び去つて元の會社や第三の競合他社へ移る人間たちである。口も聞きたくないと思ふのに、同僚は平氣でそれらの人間たちと交誼を續ける。余には考へられぬ事である。去つて行つた者たちは一様に利に聡く、裏表があつて平氣で嘘をつける連中である。野心や俗な金銭欲や名誉欲が強く、最初は馬鹿に人當りが良いのも共通してゐる。逆にずつと會社に殘つてゐるのは其の反對の人たちが多い。だから今殘る同僚たちは信用してゐるのだが、その彼等が反對の連中と今も仲良く出來ることが余にはどうしても解せぬのである。