四月九日(水)晴
世上ポジテイヴ・シンキングとかプラス思考といふ考へ方或は姿勢がある。余がさういふものを好まない事は言ふまでもないが、まあ他人がさういふ姿勢で元氣に生きてゐることにとやかく文句を言ふつもりはない。ただ、困るのはさうした姿勢や考へをあたかも誰にでも良いものと信じ込んで、やたらに推奨したり触れ廻つてしまふ人たちが居ることである。世の中良いことばかりではないのだから、さうした現實にもきちんと立ち向かひ、不運や不幸、不安や悲惨さに押し潰されさうになりながらも努めて冷静に受け止めつつ、これからの行動や思考に活かす方が當然であり、物事の片方だけを見て悲惨な現實に蓋をしてしまふやり方にはどうしても胡散臭さを感じる。ましてや、それを売りものにしてセミナーやら講演會などで説いて歩くやうな連中は、余には犯罪者にしか見えない。プラス思考でゐれば成功する、いつも笑顔でゐれば幸せになる等を喧伝する奴ら、あいつらは皆ポジテイヴ詐欺である。人生にはそんな軟(やわ)な姿勢では乘り切れない困難さや苦しみが満ちてゐるのに、そこから目を背けさせ、お氣樂なしたり顔でポジテイヴに生きろなどといふ詐欺師を見てゐると本當に虫唾が走る。どこかにプラス思考の九割は失敗すると書いてあつたが、其の通りであらう。目を背け蓋をしてしまへば、結局内圧が高まつていつかは爆発する。困難や苦しみ、不運や不幸とどう折り合ひをつけてしつかりと生きて行くかのヒントすら、ポジテイヴ・シンキングは与へて呉れない。ポジテイヴ詐欺にはくれぐれも用心しなければならない。
