盗車

十月二十三日(木)雨後陰
友人の西村が良いところに連れて行つてやるといふのでついて行く。どうやらキヤバクラらしいのだが、店は道路に面して開放されてゐて中もやけに明るい。入ると客は皆静かに本を讀んでゐる。女性客もゐて、いはゆるキヤバ嬢は飲み物を運んで來るだけである。余はこれなら家にゐるのと變はらないではないかと言ふが、西村の説明によると今はかうした静かに過ごせる場所が人気なのだといふ。確かに、余が西村に何か言ふと隣にゐた男がこちらを睨み付けた程に、店内は静かなのである。不思議な店だなと思ひながら一人で外に出て、車を停めた少し離れた駐車場に行くと余の車が見當らない。をかしいと思ひながらも一度店に戻って便所を借り、もう一度端の車から確認して行くがやはりない。家に電話を入れるが要領を得ずに呑気なことばを返すのみである。余も何だかもうどうでもいいやうな氣になつて來た。