九月六日(日)晴

7時過ぎ起床。ホテルの朝食を取るが、パンはまずくて種類も少なく期待外れであった。これで9ユーロは高い。ゆっくり荷物をまとめて九時半頃に荷物を預けてから出発。フラゴナールの美術館を見た後香料博物館へ。ちなみに日曜でも開いているのはフラゴナール経営の店ばかりで香水だけでなく小物や子供服なども売っていて商売気旺盛である。ただ、割とセンスがいいものを揃えていて、家内も幾つか土産物を買っていた。
それからお目当てのMusee International de la Parfumerie、すなわち通称香水博物館に入る。かなり充実した展示で興味深く見た。中に20世紀初頭のグラースの香料工場の写真があって、そこに甲斐荘楠香が写っているのはご愛敬である。しかも説明にシャラボ社とあるが、楠香がいたのはスラン社なので間違いである。
日本の某香料会社が寄付したという香道具も展示されているが、置き方が滅茶苦茶で、炭団まで飾られているのはこれまたご愛敬か。入り口の脇にあるミュージアムショップに寄って絵葉書など買って出る。さらに街の中心に戻り、空いていた骨董屋のような店で古い香水の宣伝ポスターを購う。洒落たデザインのもので部屋に飾りたくなったのである。
それからパン屋でバゲット、肉屋でハムを買い即席のサンドイッチを作って広場の階段に座って食べる。これが結構美味いのである。パリの独身時代によくやったメニューだが、今食べてもうまい。食後ホテルに戻り荷物を取り、すぐ裏手にあるバスターミナルに登り、バスで駅に行き、連絡が悪くて少し待たされたが、無事マントン行の電車に乗った。
カンヌ、ニースを過ぎてヴィル・フランシュ・スュル・メールに着き列車を降りる。日曜のせいもあるが、駅からすぐのところにある海水浴場に行く客で列車は結構混んでいた。駅前には何もなくタクシーもいないので坂の多い斜面の街をスーツケースを引いて歩き、i-padの地図の「経路」のアプリで調べたところ歩ける距離だったのでそのままホテルまで歩く。ホテルはヴィル・フランシュの湾を見おろす場所にあり、プールもありモダンなインテリアのレストランもあるリゾート風の宿である。部屋は広く眺めも素晴らしい。今回の旅の中では一番の贅沢であり大奮発である。
とは言え、もともと貧乏な我が家のこと、部屋に着いてまずしたのは洗濯である。荷物を減らすため洗濯は予定通りだが、ここには二泊するのでたまった洗濯物を一気に手洗いして干した。それから一息ついて海を見ながらこのブログを書いて過ごす。それにしても高そうな豪華なクルーザーが湾にたくさん停泊しているのには驚く。そもそもこの土地を選んだのは、甲斐荘楠香が二回もここを訪れたからである。一度目はグラースから、大英帝国の観艦式にやって来た軍艦鞍馬を表敬訪問している。香水を献上したところ船上の晩餐に呼ばれたという、日露戦争勝利後の日本らしいエピソードである。二度目はジュネーブを発ってイタリア経由でグラースに向う際に立ち寄り、日曜だったので船を借りて釣りをしに海に出たが風が強くて何も釣れなかったらしい。
夜はホテルのレストランで食事。テラス席で雰囲気も眺めも良いが、少し寒いくらいであった。味はわりと良く、珍しくリッチな気分のまま就寝。