影響

十一月二十三日(月)陰時々雨
本來であれば巴里に居る日であるが、テロルの爲仏蘭西への出張が取りやめになり終日書齋に在つて讀書執筆に勤しむ。塚本邦雄の小説「藤原定家ー火宅玲瓏」を讀み了へ、續いて「菊帝ー小説後鳥羽院」を讀む。此の兩者に實朝を加へた三人の歌の闘ひは、單に文學の問題に留まらず日本の歷史を考へる上で極めて興味深い。塚本邦雄に就きて書かうとして讀み始めたのだが、興味は寧ろ新古今の時代に向いてゐる。とは言へ塚本の文章の巧さと大和言葉を中心とした語彙の豊かさには驚かされるばかりである。