傑出した駄作

十一月八日(火)陰後雨
会社の帰りに桜木町で映画を観た。先日美容院で手にしたGQという雑誌に出ていた「ぼくのおじさん」という映画で、面白そうに見えたから行ってみる気になったのだが、これがまあ、近年まれにみる駄作であった。雑誌の提灯記事にまんまと引っかかってしまった訳である。館内に客は7人。それもその筈、映画評や予告編、せめて口コミサイトを見ていれば絶対にお金を出してまで観る馬鹿は少ないと言うべき超駄作である。とにかくシナリオがまるでダメで、陳腐で先が読めて何のひねりもない。大袈裟でくすりとも笑えない、やたらでかい声を出させる演出も当然ひどいものだが、さらに悪いことに映像のセンスがまるでなくて、せっかくハワイロケまでしていながら、ひとつとして美しいシーンがないのだ。登場人物のすべてに魅力がなく、観ている者が恥ずかしくなるほどの演技である。飛行機の機内で見始めたとしたら五分で止めていただろう。むしろ、途中で席を立たなかった自分に腹立たしいほどである。松田某という俳優が、朝ドラで好感度が上がって観る気になったということはあるが、これで一気に嫌いになった。俳優の責任ではないものの、結局俳優の好き嫌いなど役の良し悪しで決まるものなのだ。マスコミでボロカスに言われる低視聴率のドラマだって、もう少し作りこんであるのではないか。観たことをさっぱり忘れて前を向いて歩いて行こうとも思ったが、久々にどこにも面白さのかけらもない、つまらないということばの意味を痛いほど感じさせてくれた映画に出会い、せめてこの日乘の読者には無駄な金と時間を使って欲しくなくて書くことにした次第である。監督山下敦弘、脚本春山ユキオ、このふたりをわたしは絶対に許さないし、今後その作品は絶対に見ない。そうそう、思い出した。前回劇場で見て心から駄作だと思ったのは『北の零年』だったが、それでさえ映像としてはまだ見所があったように思う。滅多に観ないのにこういうのに当ってしまうと、日本映画に対する信頼がゆらぎ、当分観たくなくなる。やはり、観に行くのは信頼する友人や批評家が面白いというものだけにしておけばよかったと、反省する事頻りである。