恐るべき十代

三月十七日(金)晴
最近衝撃を受けるほどの事物に出会うことが少なくなって来ているが、それでも驚くことはあって、私の頭の中をしばらく占領することになる。圧倒的というか、今までに見たことのない驚きとともに、心の奥底が揺さぶられる思いがする。そのひとつがたまたまチャンネルの切替中に見つけたミュージックビデオで、余りの衝撃にすぐにユーtubeで検索して見つかったのが「しーあ」というアーティストで、しかしながら私が衝撃を受けたのはその音楽もさることながら、圧倒的なそのダンスであった。音楽にも、もちろんダンスシーンにも疎い私が知らなかっただけで、そのダンサーの踊る一連のビデオクリップは世界で19億回以上再生されたという。むべなるかなの圧巻のパフォーマンスなのである。彼女の名は「までぃ・じーぐらー」と言い、何とまだ14歳である。ほっそりとした少女体型と特徴的なボブヘアのカツラが織り成す肉体の躍動は、大袈裟かも知れないが初めて田中の泯さんの踊りを観た時に受けた衝撃に近いものを私に与えたのである。
昨年私はべびーメタルと出会い、しばらく夢中になった。そのときも少女三人の踊りに目を奪われ、中でもゆいちゃんを私は最も好んだ。彼女も見た目には中学生くらいにしか見えない少女体型だが、ヘビーメタルのロックに乗せて踊る姿は、もともとアイドルに興味のない私をも感動させる程の可憐さであった。しかしマディーはそれ以上だったのである。私が最初に見たのはチープスリルという曲だったが、音楽も格好良い上に踊りが滅茶苦茶格好いいのである。二人の男性ダンサーも良い。振付けも照明も映像もさすがアメリカと思わせるカッコ良さ。マディーの表情も良いのだが、他の曲のこちらが切なくなるような悲しみや絶望の表情はもっとすごい。間違いなく俳優としても成功するに違いない。バレエを基礎としているであろうしなやかで柔軟なからだはどんな動きにも対応できるように見える。私の場合、どんなにダンスが上手くても顔や体つきが好みでないと全く感心はなくなるので、当分はまでぃに注目することになるだろう。この先大人っぽい体つきになったときどう感じるかはわからないが。
ところで、までぃの他にもう一人、最近知った十代のとんでもない才能の子がいる。彼誰の友人に教えてもらってさっそくゆーちゅーぶで見て驚愕した。こちらは男の子で、ふっくらしたかわいい顔をしているのにその音楽はこれもまた滅茶苦茶カッコ良いのである。ぼくのりりつくのぼうよみ、という名のアーティストで、その紡ぎ出すことばも曲もその声も、全くもって驚きの格好良さなのである。自分の思春期の煩悶とは、要するに彼のように軽やかにことばを紡ぎ出すことの出来ない自分の不才への歯軋りに過ぎなかったのではないかと思える程に、自分が十代で出会っていたとしたら間違いなく巨大な影響を受けたであろうと思われる。いずれにせよその伸びやかで心地よい歌声とその歌詞の与える影響は、椎名林檎以来のものではないかと思う。歌声であれば宇多田ヒカル以来。恐ろしい十代が現れたものである。なお、しーあの歌声も私はすごく好きである。格好いい。女性の声はハスキー系が好きなのである。