よく喋る男

四月十七日(火)陰
職場の居室は会議室の片隅を借りているような形なので昼には食事をしに来る人が多い。女性が多い中で、ひとりだけよく来る男がいる。入社四年目くらいで、同期の女性と食事をするのだが、この男、よく喋る。ほとんどひとりで喋っている感じで、しかも関西弁である。耳障りなことこの上ない。よく喋る男だなあとほとほと呆れている。
考えてみると、自分は歳とともに年々無口になっている気がする。話したいこともあまりない。口をひらけば愚痴や悔悟のことばというのも嫌であるし、迎合というか、その場に合わせた発言というのも苦手である。だから必然的に喋らなくなる。懇親会のような席でもあまり話すことがない。人の話を茶化すことはあっても、話題を提供することはない。気の利いたことは言えそうもないし、おべっかも言えないから自然と黙って人の話を聞くことが多くなるが、だからといってそうそう面白い話も聞かない。まあ、一応興味深いといった感じで聞いてはいるが。
自分のふだん考えていることは会社の歴史の細部や旗本の生活の一端という、あまりに細かく特殊なことがらなので、その前提としての知識を共有してもらうための説明は面倒だし、わかりやすくすればするほど自分にとって興味のうすい話題になってしまうので話す気が失せるのである。多くの人が興味を持つものには背を向け、自分が面白いと思うものはどうせ世の人の興味をひくことはないだろうと閉じこもる。こうして人は偏屈老人になっていくのであろう。