東大宗教学科と京都学派

ぺりかん社といふ出版社にはこれまであまり馴染みがなかつたが、思想史や宗教史関連のかなり良い本を出している。バリバリの学術書と一般向けの中間のやうな感じで、わたしには丁度良くて便利である。学界への目配りと気鋭の発掘への意欲とのバランスが良いのか、ちよつと柏書房に似たセンスを感じる。
そのぺりかん社から出てゐる『季刊日本思想史』の72号(2008)を図書館で借りて来た。特集は「近代日本と宗教学」で、中に京都学派についてと東大宗教学科の歴史に関する論文が載つてゐて、なかなか面白かった。哲学寄りで思弁的な京大と、経験科学的或いは実証主義的な東大という大雑把な学風の違ひも面白いが、仏教や印度哲学との関わり方や人脈の違ひも興味深い。
戦後に東大宗教学の教授になつた岸本英夫は、東大宗教学講座初代教授の姉崎正治の長女を娶り、その姉崎は東大で初めて比較宗教学を講じた井上哲次郎の養女を娶つてゐるから、都合三代に渡つて東大宗教学科に君臨したファミリーがあつたことになる。この岸本に教えを受けたのが柳川啓一で、さらにその弟子が島田裕己や中沢新一といふことになる。島田の『父殺しの精神史』は畏友橋本氏の薦めで読んだことがあり面白かつたが、柳川と島田の師弟関係、さらに岸本と柳川の師弟関係における父殺しというテーマをモチーフにしてゐて、何だか宗教学の血の濃さのやうなものを感じさせる。
ところで、戦前には天理教の二代目教主となる中山正善始め金光教など神道新興宗教の関係者が続々と東大宗教学科に入学してゐたといふ。各教団はアカデミズムとの接近と交流を図り、実際教授連とは良好な友好関係を築きあげたらしい。面白いのは姉崎が天理教の中山の別荘で倒れ亡くなつてゐることで、例のオウム真理教事件で島田裕己始め宗教学者が当初オウム擁護であつたことが問題になつたことがあるが、新興宗教に甘い態度を取りがちなのはその辺からの東大宗教学科の伝統なのかも知れない。

やつと通信七〇号完成。今日は一日中執筆してゐたやうな気がする。