応挙「雪梅図」

十月二十四日(日)陰後雨
午前、日本橋三井美術館に赴き円山応挙展を観る。眼鏡絵と呼ばれる西洋風遠近法を取り入れた若描きの着色風景画も面白く見るも、矢張白眉は襖及び屏風絵たるは論を俟たず。就中草堂寺所蔵「雪梅図襖」は雪に梅てふ月並なる絵柄なれど、余ひと度之を目にするや暫し動く能はず。画風まさに神韻に達し、老若二本の梅の姿に雪後の深閑たる響を聞く思ひあり。絶品といふべし。近づけば書家の筆墨に接するが如く其の筆蝕筆致の妙を堪能し、離れては雪後の天地縹渺として夢幻の郷を彷徨ふ心地して見る者をして幽境に遊心せしむ。筆致の洒脱、筆勢の絶妙、超俗の趣あり、雪中の梅香仄かに漂ふを感じざるを得ず。技量の神に入る事彼の等伯の松林図にも匹敵す。余は茫然と立ち尽くし、去り難き思ひを残して進めば、「竹雀屏風」も亦佳品也。雨に煙る竹林の構図構成の妙、以て立花の範とすべきものなり。国宝「雪松屏風」こそ余の好みとは違へど、余の応挙を敬愛する事長谷川等伯に勝るとも劣らざるものありと言ふべし。他にも観るべきもの多く、大いなる満足を得たる観展也。
昼過ぎ日本橋より地下鉄東西線にて早稲田に到り、二時より如道会例会に出席。演奏会のリハーサルにて各自一度道場で吹きたる後、五時半場所を箪笥町区民ホールに移し、演奏会当日の演目順に再度試奏し、十日後の本番に備ふ。九時過ぎ終了し、直ちに帰途に就くも帰宅十一時を過ぐ。