國史大系

十二月十三日(月)陰後雨
定時退社後買物して帰宅。米を磨ぎ尺八を吹く。夕食後嶺庵に籠り、昨日図書館で借りて来た虎関師錬の『元亨釈書』の巻二十九音藝志の項を書写し始む。墨を磨り和綴本に罫線を引いて筆で写し取つてゆく。國史大系本しかまともな校本はなささうであり、同書が古本でも高いので、もともと釈書のすべてを読むつもりがないこともあつて、現在のところ興味を持つてゐる読経に関係する三頁ほどを筆写することにしたものである。レ点等は入つてゐるものの漢文で、読下し文や注釈はなく難しい漢字も多いから、書写した上で漢和辞典を引きながら読んでゐる。此れが無上の愉しみなのである。自分の趣味で揃へた水滴やら硯、筆置、墨床に囲まれて文机に向かつて正座してせつせと筆を運ぶ楽しさ。漢和辞典を頼りに、最初はまるで分からなかつた文章の意味が取れ始める喜び。先日奈良の博物館で空海の書や丁寧に書かれた写経の筆跡を見て言葉や文字を大切にする心や文化を思ひ出し、心して筆写する気になつたのだが、取掛かりとしては丁度よい分量である。和綴本の二頁分写してから其の分を読解した後入浴。更に夜坐を組んでから就寝、深更に至る。