八斎戒について

在家の佛教徒は月に六日ほど出家に準じた戒律(八斎戒)を守ることになつてゐて、其の六日のことを六斎日と言ふ。八斎戒のうち五つは五戒といつて、本来佛教徒である限り日頃から守らなくてはならないもので、下記の五つである。
• 不殺生戒(ふせっしょうかい) - 生き物を殺してはいけない。
• 不偸盗戒(ふちゅうとうかい) - 他人のものを盗んではいけない。
• 不邪淫戒(ふじゃいんかい) - 自分の妻(または夫)以外と交わってはいけない。
• 不妄語戒(ふもうごかい) - うそをついてはいけない。
• 不飲酒戒(ふおんじゅかい) - 酒を飲んではいけない。
Wikipediaより]
最初のふたつは人間としてあるべき姿であり、人間や特定の動物を殺せば通常は罪になるし、偸盗も同様である。嘘をつかないといふのは難しいが、わたしは努力してゐる。独身なので邪淫は避けられるとして、問題は不飲酒である。わたしは飲酒を断つたので問題ないが、此の最も基本の戒である不飲酒戒を全く無視してゐる出家=僧侶の如何に多いことか。大乗佛教に対するわたしの抜きがたい不信は其処にもある。
さて、残りの三つはといふと、
• 歌舞音曲を見たり聞いたりしてはいけない
• 天蓋付きで足の高いベッドに寝てはいけない
• 正午以降は食事してはならない
である。最初の戒は、普段から音楽を聴くことは余りなく自分で尺八を吹くくらゐで、テレビもないので人が踊るのを見ることもまずないわたしのやうな人間にはわりとやさしいものである。ふたつ目は天蓋付のベツドで寝たこともないし、ある本によると「足の高い」とは65センチ以上とあつたので、家のベツドはそれより遥かに低いから問題ない。但し、夏には床に布団をひいただけで寝てみやうと思ふ。この戒には、実はもうひとつ他の戒も付け加はつてをり、其れは化粧をしたり香りを付けたり、装身具でからだを飾つてはならないといふものだ。これもわたしには難なく達成できる。クリームもダメといふことなので、入浴後にスキンローシヨンなどつけぬやうに注意するだけで足りる。アクセサリーの類は今はもとから一切つけてゐないからである。
最後の正午から翌朝夜明けまで飲料を除いて何も口にしてはいけないといふ戒律が一番大変さうではあるが、やつてみると意外に簡単に出来てしまふ。八斎戒をしたからと言つて誇るべきものでもないし、そもそも「わたしは八斎戒をしてゐます」などと言ひふらすのははしたない事であるのは重々承知してゐるが、やつてみるとそれほど特別な苦行ではないといふことは言つてをきたい。特に、酒も飲まないし、音楽がないとゐられないとか、ダンスが好きでいつも踊つてゐるといふ訳でもないわたしのやうな人間にとつては、時にからだを飢餓状況に置くことが健康にも良いと聞いてゐるから余計に、昼ごはんを早めにとり、食事を一回我慢して済むのであれば、八斎戒は大した苦にはならないのである。
だからこそ、こんな事も守れない大乗仏教、といふことは日本のほとんどの佛教の僧侶に対する尊敬の気持ちはどんどん失せてゆく。篤く三宝を敬ふ気持ちはあるけれど、三宝の一つ「僧」とは「僧伽」すなわちサンガであり、此れは僧院に等しいのであるから、戒律を守らぬ破戒僧への敬意までは含まれてゐないと解釈することもできやう。
六斎日の夜、わたしは速やかに眠ることだけを願つて蒲団に入る。すると不思議によく眠れて翌朝の寝覚めも良いのである。それに、空腹は何か大切なことを思ひ出させてくれる良い機会でもある。イスラム教の断食月にも深い意味はあるのだらう。時代錯誤かも知れないが、わたしは八斎戒を続けてゆきたいと思ふ。