書画堪能

一月二十八日 
朝六時家を出で新横浜七時過ぎの新幹線にて新大阪へ。関が原から米原にかけ積雪及び降雪あり、先日の山形とはまた趣の異なる雪景色を徐行運転の為ゆつくりと楽しむ事を得る。新大阪到着は三十分遅れ、大阪支店M氏の運転する車にて急ぎ用務先に向ふ。二ヶ所を廻り、三時に京都五条坂付近で車を降り、徒歩河井寛次郎記念館に赴く。旧居の姿そのままに遺愛の家具調度品や作品等を配し、小ぶりながら好ましき趣なり。余は所謂「民藝」の類ひにはさして興味は持たざるも、流石に寛次郎に佳品あり、住居調度の類の統一せらる美意識の働きには、懐かしさにも似た親しみを覚ゆるは事実なり。展示せらる其の書も面白ければ色紙でもあれば求めんとするも、受付横にて売らるる二枚は余の好みには非ざれば止め、絵葉書三葉を購ふ。
記念館を後にし、陶工の家の多い一画を歩み、方廣寺経由京都国立博物館に至る。途上方廣寺大佛殿跡の今は駐車場に成るを見る。応挙の風景画にて見し大佛殿の威容を偲ぶよすがだになし。博物館では開催中の特別展「筆墨精神-中国書画の世界」を観る。金曜は八時まで開館といふこともあり、人の少ない中時間をかけて見て廻る。
国宝は十点にて、中では禅院額字の「首座」の「座」の字が素晴らしかつた。また朱子学の祖朱熹王陽明の直筆の書に初めて接し感動を覚ゆ。嘆息すべき見事な書は勿論多かつたが、画にも佳品が多かつた。呉昌碩の松竹梅図も良かつたし、山水画にも観るべきものが多かつたが、絶品は蕪村の「竹渓訪隠図」で、色彩の鮮やかさと構図の妙、若竹色の地の中にデフォルメされた竹林の文様を散らす美しさに暫し立ち尽くした。与謝蕪村の凄さを再発見した思ひである。
また、同時に特別陳列された園田湖城展でも鉄斎の絵や湖城が鉄斎の為に作つた篆刻などを楽しく見た。篆刻をやる積りはないけれど、見るのは次第に好きになり始めてゐる。ミユージアムシヨツプで鉄斎の富士山の絵が印刷された便箋を買ふ。良い書画を見ると便箋にでも文字を書き連ねて手紙を出したくなるのである。
博物館前からバスで京都駅に行き、歩いてすぐの安宿に投宿。荷物を置き夕食を外で取るが、寒いので歩き回るのは諦め早々に宿に戻つて早めに就寝す。