少年叛乱軍

帝政ロシアの城館のやうな建物に一人の美青年が入つて行く。城館の主人は反皇帝派の大貴族であり革命の黒幕である。青年は帝政転覆のための大仕事を成し遂げて帰つて来たらしく、報告を済ませると大胆にも普段は誰にも会ふことのない大貴族との面会を求める。執事たちも已む無く取り持つと会ふといふので奥に通される。初老の大貴族は青年に親しく、しかし厳しい表情は崩さずに何事か話しかける。儀礼的な会話のやうにも見えたが青年はなかなか下がろうとしない。大貴族がさらに何かを言はうとした時、胸を押さへて倒れてしまつた。心臓発作である。驚く青年。ちやうど通り掛かつた婦人が駆け寄る。異変を聞きつけた召使たちが慌てて右往左往してゐる。
ところがその時一団の兵士たちが此の城館に侵入しやうとしてゐた。が、よく見ると其れは中学生くらゐの男の子たちで、学校でコカコーラが禁止されたことに抗議するために叛乱を起したのだといふ。城館を占拠し、付近の田圃をクリストのアートのやうに黒いビニール袋で覆つたりしてゐる。やがて正規軍が到着し鎮圧にかかる。わたしはいつの間にか少年たちの一員として物陰に隠れてゐたが、見つかりさうになつたので其処から飛び立ち、上空から正規軍と少年隊の攻防を眺めてゐる。わたしは空を自在に飛び、旋回を繰り返してゐる。実はもうひとり、眼下に見える小さなビルにある中小企業の女事務員(三十代後半?眼鏡をかけ独身)も空を飛べ、わたしは彼女と張り合ふやうに飛翔を続ける。其の中小企業の社員が何人か女事務員の手ほどきで飛行を習つてゐるがまだ飛べない。どうやら彼女とわたしとでは飛び方が違ふらしく、彼女はわたしに極めて冷静な口調で「あなたのは飛ぶとき筋肉に熱を発するでせう、わたしは違ふ」などと言つてゐる。わたしは彼女らを地上に残し再び飛び立ち、眼下の真言宗の古刹の本堂の屋根や梁の様子を興味深く眺めてゐる。
いつの間にか地上のバスの中にゐて、其の本堂のすぐ横を通りながらさらに奥にある別の寺に向つてゐる。同行は小学校の時の同級生で千葉といふ男である。わたしはさつきの少年たちの叛乱の原因がコカコーラの禁止であつたことなどを語り、中附(わたしの出身高校)では飲めたよな、とてつきり千葉も同じ高校だと思つて言つたのだが、すぐにさうではないことに気づいて気まずい雰囲気になる。やがてバスは終点に着いて寺に向つて歩き始める。寂びれた土産物屋が並ぶ場末の遊園地のやうな門前である。わたしは入場券を千葉の分まで買つてやると言ふが千葉は断り、それより便所はないかと聞く。何度か来たことのあるわたしは入つてすぐのところにあると答へるのだが急に寺に入るのがつまらなく思へ始めたところで目が覚めた。

言はずもがなの夢の解説(事実関係など)
まず青年が大貴族に会ふくだりは寝る前に読んだ阿摩晝經のバラモン青年のアンバツタが釈尊に会ひに行く段の影響だらう。また、坐禅をしてゐて突如タルコフスキーの映像が脳裏に蘇つた。そして何故かドストエフスキーのことを考へてゐた。ロシアの城館は『白痴』か『悪霊』を思はせる雰囲気であつた。また一方で先日高校の教員をしてゐる大学時代の後輩から聞いた、ドストエフスキーの名前すら知らない自称「読書家」の高校生の話を思ひ出してゐた。其の高校は早稲田の「附属」であり、わたしの出身校中央大学「附属」高校と通ずる。コカコーラについては思ひ当る節はない。
飛ぶ夢はよく見るが、垂直方向にあれほど上手く飛べることは珍しい。いつもは平泳ぎの形でやつと浮かびながら少しずつ上昇するのである。ある程度高くなると風をつかむ感覚があつて、さうなると飛ぶのはたやすい。今回は飛んでゐて本物の鶴とぶつかりさうになつた。
中小企業の女事務員は、昨夜ユーチユーブで見た稲田朋美議員の国会質問の影響だらう。其の会社で稲田事務員から飛び方を教はつてゐたのはやはり小学校の同級生で、実際に今出身小の副校長をしてゐる篠原であつた。小学校の同級生二人が出てくる理由も思ひ当ることはない。
少年叛乱軍はお揃ひの銀色の制服とガラスのヘルメツトを身につけてゐた。いたずら好きさうな美少年ばかりの、怖いもの知らずの仲のよい一団であつたが不思議と統制がとれてゐた。リーダーが誰だつたかは思ひ出せない。大貴族が倒れるところはタルコフスキーの「サクリフアイス」の一シーンのやうであつた。寺の入場券を買はうとして財布には六千円しか残つてゐないことに気づき心配になるが、其れは実際に今わたしが所有するすべての金額なのであつた。今日が給料日で助かつたのである。