城・茶室・花火

八月十日(水)快晴、暑し。
新幹線にて名古屋に行き、名鉄に乗換へて犬山に至る。徒歩宿に到り荷物を預け、正午の炎天のもと古き城下町の面影の残る本町通りを散策。古き民家を改装した食事処にて朴葉寿司を食す。其の後商家たりし旧磯部邸を見学し蔵の写真を撮る。先日の蔵の家訪問より蔵に縁が出来たやうで、今度の旅では此の後も度々蔵に出会ふことになる魁である。



犬山の蔵と町並み

眩暈がするほど暑い中水分の補給をしつつ犬山市文化史料館に入り、別館のからくり展示館にて犬山祭に出される山車やからくり人形を見る。また史料館にて犬山焼の陶器を見て俄かに犬山焼を気に入る。
其の後徒歩国宝犬山城に上る。木曽川を望む高台にて平場より風は通ると雖も暑き事大して変らず。城は好きな方なるも犬山城は初めて也。展示品なども面白く見る。天守閣を下り再び徒歩にて有楽苑に赴く。広い庭内に四つほどの茶室が散在す。二つ目の弘庵なる茶室にて一茶を喫す。N子と一緒なれば作法を倣ひつつ一服の薄茶を愉しむ事を得る。床には書が掛けられ「仙露」てふ落款があり、聞けば此の苑を所有せし名古屋鉄道の社長の号といふ。洒落の利いた雅号であらう。



犬山城

元庵の茶室

弘庵を後にし国宝茶室如庵を見学。昨年の末に建仁寺正伝永源院にて同じものの写しを見るも、此方は本物也。但し、中の様子は余りよく見られず残念也。更に元庵を経て門を出る。まだ日は高く暑さも衰へず。名鉄犬山ホテルに逃げ込みビールを飲み、六時半過ぎになつてようやく木曽川べりに赴くに既に雑踏甚だし。堤防沿ひの狭い道の両側に夜店が並び其の間を浴衣姿の花火見物客が行き交ひ、焼ソバやお好み焼を買ふ列などもあつて思ふやうに進めず。まずは有料観覧席の場所を確認してから再び土手を上つてどうにかビール、焼ソバ、焼き鳥の類を買つて席に着くと、花火の開始まで十分余であつた。
七時半より第三十二回日本ライン夏祭納涼花火大会。抑々この時期名古屋近郊で開かれる花火大会を探し、此の大会を見つけて決めた犬山行きなのである。ライトアツプされた犬山城が視界に入る中木曽川に打ち上げられた花火を見る。暑さは変らずと雖も川風は涼しく夏休み満喫である。八時半前終了し、相当の混雑を予想したが電車に乗らず歩いてホテルに戻つた為空いた道を通つて意外と早く着く。暑さに疲れ切つて冷房を効かせた部屋から出る気になれず、結局部屋でビールを飲んで早めに就寝。