三段落ち

十一月十日(木)陰後雨 寒し
八月の時点で、何か胡散臭い感じはしてゐた。内部告発をした社員を配転して八月の裁判で負けた、他ならぬオリンパスの話である。先月不透明な金の流れを指摘して解任された英国人社長をめぐる一連の報道を耳にした時、ああ同じ事をやつてゐるな、あの裁判から何も学んでゐないのだなといふ印象を持つた。実は義理の弟が同社に勤めてゐるので夏以来何かと気になつてゐたのである。企業買収に絡むコンサルタント企業への支払ひ額も、其の後の損失に計上した金額も、わたしのやうな素人にも尋常ではないことが起こつたであらうことを想像させるに十分であつた。それが、あれよあれよといふ間に損失隠しの実態が明るみに出され、経営陣の不正腐敗はもはや蔽ひやうがない。挙句に、今朝のニュースでは、2009年に不正を指摘した監査法人を決算後に解約したとある。社員に責任はないのだが、これでは何か不都合なことを指摘されると首を切るといふ社風があつたとしか言ひやうがない。その結果株価は暴落し、上場廃止も危ぶまれる事態に陥つてしまつた。義弟が持ち株会に入つてゐたかは知らないが、僅か一ヶ月足らずの間に株価が五分の一近くに下がつてしまつたら、泣くに泣けないのではないか。大口株主であれば怒り心頭であらう。怒りの鉾先は、明らかに其の任に就くだけの能力を欠いてゐるとしか思へない経営陣だけでなく、こんな分かりやすい異常も見抜けなかつたアナリストとかいふ高給取りにも向けて欲しいものだと思ふ。
ちなみに義弟はかつての甲子園優勝投手であり、其の後高校時代の肩の酷使が祟つて選手生命を断たれたといふ経緯があり、ある意味わたしなどより余程浮沈の激しい人生なのかも知れない。わたしの大学の後輩にもなる義弟とその家族、即ちわたしにとつての親戚に当たる一家のこれからを考へると心配な事態がしばらく続きさうである。


[乞子漫筆]TPP
今まで此の場で政治的な発言をしたことは殆どないが、いくつか此の問題に関する論説・意見を目にした上でわたしは此の協定の締結に反対することにした。民主党売国奴ぶりは最早赦し難いものがあるが、それを措いても阻止に向けて取り組む勢力への協力・加担を進めるつもりである。本来は何故さういふ結論に至つたのかを書くべきなのだらうが、実際には此の決断はどちらかといふと情緒的なもので、わたしにはどうしてもグローバル化といふものに良い印象を持ち得ないのである。グローバル化をお題目に日本にヅカヅカとやつて来る外人も、それに旗振る日本人も、わたしの会社といふ狭い世界を見ただけでも、信用ならぬ連中ばかりなのである。ましてや今回のTPPを促進しやうとしてゐる日本人にはどう考へても余程注意してかからねばならない気がしてゐる。
文化と歴史を背景にした国家といふ存在が其の存続の為に設けてゐた関税を含む防御策を「貿易障壁」といふ言ひ方で最初から悪者視した上で、それらを例外なしに撤廃することを目標とするといふのであれば、経済以前に国家や権力についての人々の観念や合意の劇的な変化が先立つて然るべきだ。そんな議論もないまま、其の国の特殊事情を無視して成し遂げやうとする「平準化」とは、狡猾で利口な人間には抜け道を作つて利益を増大させ、まともな人間には何であれ世界最低水準に合はせることを強いるものでしかないもののやうに思はれる。わたしは自分が利口でも利に聡い訳でもないことを知つてゐるから、ただただアメリカ人の考へることに恐れと不信感しか抱かないのである。
さらに締結賛成派の論理が馬鹿丸出しといふか、頭の悪さを何か流行りの言葉で誤魔化す、思考以前の態度が明白なのも、絶対に乗れない理由のひとつであらう。目先の餌に捉はれて、其れが社会全体に何をもたらすかの想像力が絶対的に欠如してゐる。少なくとも賛成派の新聞の論説委員論議には耳を貸さない方が精神衛生上よろしいやうである。
まあ、此処まで書けばわたしの結論に至る元ネタが何であるか、分かる人には分かるだらうと思ふよ。