ゴムを売る

高速道路を歩いてゐる。見ると工事中の箇所があり、今は開通してゐることから、わたしは「十年くらゐ前の横浜だよ」と言ふ。妻らしい女性と一緒なのである。しばらく行くと出口が見え、このまま歩いては出られないかもしれないと思つてゐると道端にタイヤの輪を切つて引き伸ばしたやうなゴムを見つけ、タイヤにしてはやけに長く先つぽには何もないがこれなら何とかなるだらうと思ひ引き摺つて行く。すると出口近くに困つた様子をしてゐる五十過ぎの背の高い白人がゐるのに気づく。これはしめたと思ひ、ゴムを指さして売つてやらうかといふジエスチヤーをする。向うも渡りに船で安堵した笑顔で頷く。セブンサウザンドと言つてすぐに金を出さうとするので、いやセブンテイサウザンドだと言ひ直すと素直に札束を差し出す。しめしめと思ひそそくさと立ち去り、走り出したいのを我慢して、妻に「角を曲がつたら全力で走るぞ」と告げる。角を曲がりとにかく走るうちいつの間にかひとりになり、道路脇にあるバス停の待合室のやうな処に入る。そこで札束を確認して家に帰ると、娘がおでんを作つてをり客もたくさんゐる。やむなく二階の自分の部屋に行きポケツトを探ると札束がない。あの待合室に忘れて来たらしい。すぐに車で取りに戻らうとするも、それが仙台であつたことを思ひ出し、さすがにもうなくなつてゐるだらうと諦め、携帯で妻に失くしてしまつたと詫びの電話を入れる。ところがポケツトからすつかり忘れていた100ユーロと二千円が出てきて、もともと唯のタイヤだつたのだから結果として良かつたなどと言ふ。その後もう一度部屋に戻ると失くした筈の札束がある。ところがよく見ると中国やタイの紙幣で、どう見ても七万円分などありさうにない。騙されたのは自分の方だつたのだなと苦笑しながら、いや騙したのはお互ひ様かと思ひ直して、早くそれを妻に告げたいと思つてゐる。