私立小学校

二月七日(火)雨後陰
小学校に入学することになつた。私立の、それも女子部である。わたしは現在の姿なのだが、不安とともに初めて教室に入る。わたしはスカートを履いてゐる。N子も一緒だからいいが、ひとりだつたら怪しまれるだらうと思つてゐたら、他にも二人ほど五十過ぎのオヤジが居て、あいつらは危ないと思ふ。禿親父なのである。教室脇の庭には歓迎の花が置かれてあつて、その下に教科書が埋めてあるので各自取るやうにと指示がある。N子と同年輩の、どう見ても小学生の母親としか思へぬ女性もゐて、流石に小学一年の算数はよく分かるはずだから飛び級もあるのかしらなどと言つてゐる。この学校は男子部もあるものの男女別学で、わたしは女子部の方なのだがトイレに行きたくなつて探すと女子部の建物の外に男子トイレを見つけて入る。吹きさらしで冬は寒さうだなと思ふ。見ると向ひ側の男子部の校舎の方が立派で羨望を覚える。ところが教室に戻ると男子部の中年の生徒が同級生に何か親切に教へるやうな振りをして下腹部を露出させてゐるので、わたしはたまり兼ねて、このクラスは俺がゐるからあんた方に手出しはさせないと啖呵を切る。不服さうに引き下がる連中を尻目に「下衆野郎どもが」と吐き捨てるわたし。ところがその後すぐに連中のボスらしい見るからに悪さうな奴がやつて来る。奴は殺人まで犯しながら金で判事を買収して無罪を勝ち取つたといふ噂がある極悪人で、ナイフをちらつかせるのだが、わたしには不思議な力があつて奴の腕の力をぐにやぐにやにさせて、逆にナイフを奴の鼻先に付きつけ、やる気かなどと言ひながら奴の頬をナイフで切りつけたりする。その後よく覚えてゐないのだが奴が改心するかして皆が祝福して学園ドラマの大団円のやうなシーンで終る。
N子の甥が私立の中学を受験し、昨日合格の報に接した影響と、最近教師による不祥事を余りに多く目にすることによる夢なのだらうと思ふ。夢とは言へ実に奇妙な状況なのだが、クラスの女の子たちが割と平気に受け入れてゐたのも不思議と言へば不思議である。
ゴンブロビツチの小説『フエルデイドウルケ』ではないが、大人になつた自分が中学や高校に通ふ夢を今でもよく見る。とは言へさすがに小学校の、それも女子校に入つたのは初めてである。中学に行く夢では必ず出発に手間取つて遅刻するか、中々着かなかつたり、着いても教室がどこかわからないといふものが多い。高校では英語の授業に春から一回も出てゐないことに気づいて焦る夢をよく見る。それと物理の試験があるのに何も勉強してゐないので卒業できないのではないかと心配する夢を繰り返し見る。大学に入つてからその夢を見て、目覚めてからもう物理をやる必要がないことに気づき、大学に入れて本当によかつたと思ふことが何度もあつた。さう言へば先日慶應義塾大学に合格して入学した夢を見た。慶應は余り好きな学校ではない。と言ふより福澤諭吉が嫌ひなのである。勝サンに言はせれば、「あいつは小物だからネ」といふ訳である。余の尊敬措く能はざる勝安房守麟太郎、号海舟先生が仰るのであるから間違ひない。もつとも大隈重信が好きといふ訳でもないのだが。