新富町

五月十七日(木)晴、深夜雷雨
朝の通勤時東海道線電車の人身事故により藤沢駅にて一時間以上足止めを食ふ。其の間持参せし文庫本の読書進む。十時過ぎ会社に着き十二時には半休をとつて退社。東海道線内爆睡の後新橋・有楽町と乗り換へて地下鉄で新富町に至る。二時半より講演。聴衆六十名程。かなり準備に時間を掛け話す内容も原稿で用意して行つたものの話し始めると普段思つてゐることしか喋れないものである。其の分詳しくはなるが、流れといふか自分でも話と話のつながりに欠けたやうには思はれる。会場に冷房は入つてゐるものの、喋り終れば汗びつしよりであつた。
今回の講演は企業のマーケティング担当者や開発部門の人たちに向けたもので、要するにビジネス寄りの話が中心になる。今までもかうした、会社の金を使つて聞きに來てゐる人たちを対象にした講演が殆どであつた。今回の講演を終へて思つたのは、矢張り余はかうした事に時間を費やすべきではないといふことである。彼らに役に立つことなどたいして話せる訳でもないし、逆にビジネスに有用な情報を提供する為にいろいろ調べて準備する時間が無駄に思へて來たのである。少しばかりの講演料を稼ぐ為に、やりたくもない事をやるのが嫌になつた。少なくともビジネスに関る場である限りは、もう講演は止めやうと思ふ。不得手な事に余計な手間暇をかけたくない。好きな事、やりたいことだけやつてゐたいといふのが、今の余の偽らざる心境である。
五時には会場を後にし、急遽営業のS氏に連絡を取ると空いてゐるとのことなので、横浜で六時半に落合ひ、軽く飲む。講演が終はつてほつとしてビールでも飲みたいといふこともあつたが、先日発令された役員人事を含めた昨今の社内の動きにつき呆れたることのみ多く、其の思ひを共有する友と話して憂さ晴らしといふ、サラリーマン的な行動である。八時に店を出て真直ぐ家に戻る。本日カードの引落し後の銀行残高竟に千円を切る。