幼児語

十二月二十日(木)
子どもに話しかけているわけでもないのに、いい歳をした大人が「でちゅ」とか「まんま」などといった言葉を使うのは、聞いている方が恥ずかしくなることもあり、一般に避けるべきこととされている。当然である。しかし、ある特定の単語だけ、何故か知らないが幼児語が出て来てしまうということはあるのではないか。わたしの場合お腹を指す「ぽんぽん」がそれで、特に冷えるとか冷やすといった縁語を伴うとほぼ自動的にぽんぽんになってしまう。それも他の話体は全く普通の大人の会話であってもそうなってしまうのだ。例えば「何だか具合が悪そうだね」「うん、きのう酒を飲みすぎて布団をかけずに寝込んでしまってね。それでポンポンが冷えて腹をこわしたらしいんだ」というような調子である。子どもの頃から実際に胃腸が弱く腹をこわしてばかりいたせいもあり、冷やしてはいけない自分の体の部位は、お腹とか胃腸ではなくやはりぽんぽんという言葉がしっくり来る。同じく胃腸の弱かった荷風先生が断腸亭なら、わたしもぽんぽん亭としなくてはならないかも知れないが、さすがにこれはふざけすぎて駄目である。もっとも、考えてみると初めて飼ったインコに、ピーちゃんではなくポンちゃんと名付けたのも、案外この語感に対する好みと親しみが伏線としてあったのかも知れない。ポンちゃんを死なせてしまったわたしは、ポンちゃんのことを思い出すたび、悲しみにぽんぽんがしくしく痛むのである。