ノオト

七月二十九日(月)雨後陰
梅雨のやうな天氣が續いてゐる。雨と湿氣は鬱陶しいが、朝晩は割に涼しく寝苦しい事もないのは幸ひである。
週末リビングの模様替への第一陣が終り、續いて届く家具を待つ間処分する家具や捨てる事にした食器や雑貨で家中戰場の如き有様也。
某香料會社創業者の百年前の歐洲での足跡を追ふ連載を再開することになり、久しぶりに三年前に集めた資料や、もつと前から準備してあつたノオトを見返してゐる。自分で言ふのも何だが、實に詳しく調べて細かく記入されたノオトである。全部で三冊あつて、其れ等を使へば今囘の連載は大した苦労もなく書けさうである。一冊は『明治・大正石鹸ノオト』と題され明治元年から昭和初期に至る時期の石鹸や香料、化学産業の出來事を年表にしたもので、日本と海外の動きが対照できるので、今見ても中々面白い。此のノオトを下敷きにして「文明開化と石鹸」といふテーマで一冊書きたいと思つてゐたのだが、二三の出版社に打診したところ、賣れる見込みなしとて即座に断られてしまつた。世の中さうは甘くないやうだ。
二冊目は『英吉利石鹸産業−附石鹸乃化学』と題され、當時讀んだ英吉利の石鹸及び化学産業についての洋書の要約を中心とした、石鹸と近代香料の黎明期に関するノオトである。これは余がまだ滞米中書き始めたものだから、既に十年以上の星霜を経たことになる。
三冊目が某香料會社創業者K氏に関するノオトで、此方も年表式にK氏の歐羅巴に於ける足跡を辿つてゐる。會社の広報から貰つた資料のコピーを元に、事細かに編年体で記されてゐる。三冊とも所謂大學ノオトで、其処に萬年筆で記されてゐる。百年前の事跡を調べるのであればこれ位の氣は使ひたいものである。これから八月一杯かけて、まづは連載再開第一囘の原稿を書き上げる予定である。