外交官

十二月十一日(水)晴
香料の売り込みに来ている様に見せかけて、実は外交官である私が、フランスの会社に出張で来ている。
交渉の相手は女性で、その秘書が実は私の内通者なのであった。秘書が会議中にやって来て、何気なく私に資料を渡して去るが、交渉相手が「彼女はいったい何しに来たの?」というので、飲み物がいらないか聞きにきたんじゃないかと私はフランス語でとぼける。
その間に入った情報により、日本は二国間に挟まれる格好になったので、私は「何としても平和的に解決するぞ」と部下に宣言する。そして、入手したビデオを見ると、今は政府高官になった交渉相手であるが、かつては政府批判や政治家の糾弾などで名を馳せたらしく、その様子が映っている。私は今後の交渉をどう進めようかと迷っているが、そこに、会社の方針決定を実は倉庫に勤めるある男がしているとの情報が入り、私はその男に面会を求める。
場末の街角に、多分そんな姿だろうと思った通りの、さほど背の高くない、革ジャンを着た長髪で無精髭の四十がらみの男が立っている。風の強い夕方で、道行く家族連れの子供が飛ばされそうになったりする。交渉のために早く私がそこに行かなくてはならないのに、何かがあったらしく、私が一向に現れない街角を私は空しく見つめている。これはまた厄介なことになるなと思いながら。