間違ひ

家のベツドの中にかつての情人M・Oと寝てゐる。彼女が口に含むので私はいきり立つて交はり始める。私は彼女の太腿をまさぐるが、ふと部屋のドアーが開いてゐるのに氣づき氣になつて見てゐると案の定妹が入つて來たので私はさつと蒲団をふたりの裸體の上に掛けて寝てゐたふりをする。それから私は蒲田にある會社に出掛けると、職場にフィルメニッヒの武田と見知らぬ若僧がゐるので私が「何で此処にゐるんだ」といふ顔をすると二人は立ち上がつて挨拶をして「出て戴けるんですか」と聞く。どうやらプレゼンテーションに來たらしい。私は挨拶を返すこともせずただ「出ない」と言つて去る。私は自分の勤めてゐる會社を辞めて競合に走ったくせに、よくもしゃあしゃあと此の會社の敷居を跨げたものだと思ふ。私は此の男が心から嫌ひなのである。私はそのままトイレに行くと隣の朝顔に徳田が立つてゐる。やあ、しばらく。今度さあ、飲みに行かうよと私が言ひ、さうだ今日はどう?と聞くと、今日は先約があるから駄目だと言つてエレベーターの方に行く。じゃあまたそのうち、といつて別れるが、それでも再会を果たした徳田と同じビルで働くやうになつて本當によかつたと思ふ。席に戻らうとすると營業のK氏に会ふが、「あれ?」といふやうな顔をするので、すぐに今日L社に自分がプレゼンテーションに行く筈だったのを思ひ出した。一時からのアポイントメントだが既に一時半である。慌てて外に飛び出して走りながら、其のプレゼンには映畫を一本見なくてはならないことを思ひ出し、近くの映畫館に飛び込むと、既に始まつてゐるので入場出來ないといふ。ただし、上映に三時間掛るといふので、今から急げばL社の連中が見終はる前に着けるかも知れぬと思ひ、再び走り始める。驚く程早く走れるし疲れもしないのだが、横を走る線路では電車が自分を追ひ抜いて行くのを見て、流石に秋葉原までだと走るよりは電車に乘つた方が早かつたかも知れないと後悔し始めてゐた。