妄想全開

三月十四日(金)陰
晝過ぎ會社を出で六本木に向かふ。同行は同僚ふたり。東京ミツドタウンの香水売場など見た後三時半イースト地下のホールに入る。其の場で後から來たY子と合流。四人で四時からイツセイミヤケの香水新発売のイベントにて某香料會社仏蘭西人調香師によるトークセツシヨンを聞く。同時通訳のヘツドフオンが渡され、余は仏蘭西語を聞く。後で聞けば矢張り重要な用語が訳されてゐなかつたり、多少ニユアンスの異なる訳し方であつたらしい。特別目新しい話はなかつたが、グラース出身の俳優のやうな男前の若き調香師の話には共感できる事が多かつた。入場時に配られたカードによりY子が當りを引いたこともあり、五時過ぎガレリア二階のプリーツプリーズの店に行きドリンクのサービスを受けるとともにY子は香水を貰ふ。其の後ひとり歸つて殘つた三人で飲みに行くことになる。此の近くで仕事をしてゐた家人に聞いた乃木坂近くの店は電話してみると予約で一杯との事で止む無く驛近くの店に入る。同行の女子はお氣に入りのあきちやんとY子であり、予想通りの樂しい時間となる。即ち今日の状況は、娘のあきちやんと買物に出掛けたら、愛人のY子にばつたり出喰はしてしまひ、Y子とは職場での不倫関係であることから、娘のあきとも顔見知りであるため、齢の近い二人はすぐに仲良くなつて、三人で食事をすることになり、当惑しつつも満更でもなくふたりのやりとりを苦笑しながら眺めてゐる中年男、といふもので、これはある意味男の夢のひとつであらう。念の為に書くが、此れは余の妄想であり、殘念ながらY子は余の愛人ではないし、あきも娘ではない。もつとも凄いことに、余はこの妄想を二人に告げ、そして二人ともそれを面白がつて呉れたことである。二人の可愛い若い女子を前に飲む酒の不味からう筈もなく、四時間足らずの時間であつたが今まで以上に二人についても知ることが出來てこの上ない幸せであつた。二人とも女子校出身で、あきちやんは女子の中にあつては常に男役であつたことなど、成程と思はせる話も多かつた。彼氏の処に泊まつて行くといふY子と六本木で別れ、大船まであきちやんと一緒に歸れたのも良い思ひ出になりさうだ。十一時過ぎ歸宅。幸せな氣分のまま就寝。