蹴球の試合

五月二十六日(月)陰
遅刻の心配をしながら朝の支度をしてゐる。洋服箪笥の中から短パンを引つぱり出し、さう言へば今日蹴球の試合があることを思ひ出す。それで試合に相応しいTシヤツも出し、スパイクも必要になるのだが持つてをらず、仕方がないので自轉車用のスパイクでいいだらうと思つてゐるとすでにグラウンド上である。對戰相手は日大三高蹴球部であるのに、此方は中學生なのか中學の時の同級生なのである。余はキヤプテンなのか、とにかくリーダー役でメンバーとポジシヨンも余が決めなくてはならない。自分はトツプ下に入り、両サイドバツクには足の速い、運動神經の良ささうな二人をつけ、キーパーにはでかいだけだが児嶋を指名。センターバツクも背が高いのを選んだ。試合が始まると案の定攻め込まれて余も防御に囘らねばならない。其れでも相手の拙攻もあつて猛攻を防ぎ、これなら零對零でPK戰に持ち込めると思つてゐると、何とキーパーがゐない。腹を減らしてパンを買ひに行つてしまつたのである。コンビニ袋を手に慌てて戻つて來た児嶋。間一髪でデイフエンスがクリア。ところが其の後ボールを手にしたキーパーが何を思つたか自軍ゴールに向かつてボールを投げてしまふ。幸ひクロスバーに當つて事なきを得たが、クラス一の大馬鹿者をキーパーに据ゑてしまつた自分の不明を恥じるばかりであつた。