凄まじき生命力

八月四日(月)晴後雲多し
嶺庵には明り取りの天窓がある。六十糎四方程の小さな曇り硝子の窓が天井に斜めに切つた形で嵌められてゐる。或る日見上げると其の窓の上を蔓性の植物が葉を伸ばしてゐる。前にも雨樋を傳はつて壁面を蔓が蔽つた事があり、今度も其れだらうと思つてゐたが、よく見ると葉は家の中に伸びてゐる。即ち所謂サツシの窓枠の僅かな隙間から蔦を伸ばして「家宅侵入」を果たしたのである。此れには流石に驚き、今まで雨が降つて漏れた事はないものの、放つてをけば茎の径が太くなつて隙間が拡がり雨漏りをしだす心配もある。直ぐに家の壁面に蔓を伸ばす名も知らぬ植物を根本から伐つた。當然とは言へ其の後は枯れ始めて引張ると乾いた葉や茎がぱらぱらと落ちて來た。
全く恐れ入るより他はない生命力である。