骨董市

九月二十九日(月)
骨董市に出向き、中に店を構える一軒に足を踏み入れる。二階へと進むと階段の代りにスロープに二本綱が縦に降りてゐてそれを踏んで登るのだといふ。綱は踏むと少し広がり左程危険ではない。足型が取られて誰が昇つたか記録するらしい。二階の品々を見た後そのまま外に出て歸らうとして門を出たところで娘の亜姫乃に出会ふ。五年以上会つてゐないが、歳相応の大人の雰囲気の女性になつてゐる。大學か會社のサークルの友達數人と一緒で、亜姫乃は私を父として紹介してくれる。私が何をするサークルかと聞くと、何でも樂しいことを皆でやるのだと答へるので、私は成程今風ですなと言ふ。その連中を見送つた後、どう見ても内田裕也にしか見えないが私の父だと言ふ人が、これからロケツトを発射するから急げといふので何人かと一緒に螺旋階段を降りたり狭いビルの隙間を抜けたりしてゐる内、五十肩のせゐで低い戸口を身を屈めて通ることが出來ずに置いてけぼりを食はされて、私は悄然と立ち尽くすのであつた。