磁石門

一月二十七日(火)雨後晴
甲府方面に向かふ電車の四人掛けのボツクスシートに、妻と義妹と甥と余の四人で乘つてゐる。目の前に高尾山が見え、山の上まで建物があるのを随分開發が進んだものだと思ふ。暫くしてその高尾山の下を抜けるらしい隧道に入つた。抜け出た最初の驛で降りて、大きな工場跡を其の儘利用して商用施設とギヤラリーを併設したやうな場所に入つて行く。余は睡氣甚だしく、奥のベンチでうとうと居眠りをしてゐた處、集合時間だといふので戻らうとして脇の道を歸る途中ふと見ると徳田がゐる。やあこんな處で會ふとは奇遇だと言つて近づくと、中の作品はどうだつたかと訊く。余はさう言へば美術品が飾つてあつたやうな氣もするが、きちんと見てゐなかったので曖昧な返事をしつつ、夢ではよく出會ふのだが現實でばつたり遭遇するのは初めてなので嬉しいと言ふ。さうすると徳田は余の同僚にも挨拶をしたいと言つてすぐ傍の宿に名刺を取りに行く。其の時其処が笠間で徳田は焼き物をやつてゐるのだつたと合点が行く。週末には殆ど笠間に行くと聞いてゐた氣がしたのである。名刺を持つて徳田は余の大學時代の友人秦に名刺を差し出す。余は二人は高校時代野球部だから都の大會で顔を合はせた事もあるのではないかなどといふが、よく考へてみると秦は東東京で、徳田は西東京で、その上徳田がやつてゐたのはラグビーであつたことに気付く。しかし余は集合時間なので急いで駐車場に行くと、古めかしいボンネツトバスに會社の連中が既に乘つて待つてゐるので乘車口に囘らうとするが、強力な力で門柱のやうなものに引き寄せられてしまふ。余は磁力に違ひないと思ふが會社の連中は余がふざけてゐると思ふのか早くしろと言ふ。余はスプーンを取り出して抛り投げるとやはり門柱に吸い寄せられてピタと張り付いたので、それ見たことかと思ふのだが、それにしても此の磁力から逃れるのはどうしたらいいのか途方に暮れ始めてゐた。