豪邁なる人

一月二十五日(日)晴
竟に『伊澤蘭軒』讀了。蘭軒先生に敬意を持つに至つたのは勿論であるが、余が興味を持つたのは其の息の一人柏軒である。其の人となりを評するに豪邁なる言葉が何度か主に其の弟子によつて用ゐられてゐた。豪邁とは字引によれば「氣性が激しくて才知が人よりすぐれていること」であると云ふ。其の言動を鷗外の筆に拠つて推し量ると、今の世であればセクシアルハラスメントかパワーハラスメントで捕まる可能性無しとしないが、其の分豪氣もあり學術にも優れた面白い人物であつた。他にも興味深い人物は數限りないが、歴史文學集の解説にあるやうに、頼山陽狂言回しの如くに使ひ蘭軒との対照を際立たせ、間に菅茶山を置いて人間関係の奥行きを作つた、作品全體の構想の巧みさに改めて驚かされる。また、儒醫に就きても鷗外に教へられる處が多かつた。
史傳の醍醐味を堪能した讀書であつた。