蹴球の試合

五月二十九日(金)
サツカーの試合を見に行く途中である。同行は徳田ともう一人。試合は夜からであるが私は晝のままの薄着で來てしまつたので、夜になつて寒くならないか心配し始めてゐた。寒くなつたらスタジアムで賣つてゐるパーカーでも買ふしかあるまい。スタジアムを望む高臺から下を見るとスポーツカーに元サツカー選手の武田がゐて、手を振ると振り返す。案外愛想のいいことに驚くとともに、サツカー選手も見に來る程の試合であることを知る。會場への階段を降りて行くと、徳田たちはずつと先に行つてしまつたやうで姿が見えない。私は慌ててチケツトを片手に入口に急ぐ。チケツトには8番の入口とあつて、ぐるつと半周ほど廻つてゲートを抜けるとニ階に案内される。其処は座敷になつてゐて徳田と碧川とあと一人の三人が座つてテレビで試合を觀戰してゐる。拍子抜けする感じで私も座布団に座ると、碧川が四人で試合を觀るにはこれが丁度いいなと言ひ出す。どうやらイングランドプレミアリーグの試合らしいが、私は殆ど興味を失つてゐた。