夢の斷片

五月二十八日(木)陰
會社のN君が夕方から山に登ろうとする。余ともう一人が同道してゐたが、これからでは直ぐに暗くなつてしまふし、夜になつたら山歩きは絶對に不可能であるからと斷念させて街に戻る。既に街灯が点いて通りはからうじて見えるが背後の山は真っ暗である。そしてN君に何故山に入らうとしたのかを問ふと、此の前箱根で見た銅で出來た手作りの取っ手付きの風呂桶、すなはち片手桶が氣に入つて買ひたいのだといふ。余が、それなら明日自分が買つて來てあげると答へる。實はN君は今度結婚するので、余は密かにこれを結婚祝の品にしやうと考へたのである。ただ、銅を敲いて造られた片手桶はそれなりの値段がするだらうから、何人かから金を集めなくてはならないと思ひながら高尾山に向かつてゐた。

余は軍人で會社の營業二人と独逸の軍事施設を見學中である。狭い螺旋階段を登り屋上らしき場所に出るが、途中で他の軍人から連絡が入り、中國製の潜水艦の中で何かトラブルが發生したといふ。急いで行かうとするが、艦内の狭いエレベーターに余は胸板が厚過ぎて入れないでゐると、營業の二人は痩せてゐるのでさつさと乘り込んで行つてしまふ。つまらない思ひでひとり階段を降りて外に出ると、其処は巴里の場末である。目の前に學校の入口があるので入つてみる。廊下の左右に教室があつて、突き当りを右に折れると教員室、左にはエレベーターがあつて呼びボタンを押す。裏の工事現場の作業員がやつて來たので何となくバツが惡く「ボンジユール」と挨拶をして外に出る。その際教室を覗いてみると生徒はゐず、事務机のやうなスチール製の机が並んでゐて其処がリセだつたと知る。角を曲がつた處に駐車場があり、余は白いクラウンに乘り込むが、バツクしたら後輪が溝のやうなものに落ち込んだのか車の前方が持ち上がつてしまふ。ゆつくりアクセルを踏むと何とか脱出できたが、降りて見るとバンパーが凹んで傷もある。ただ、その傷はもつと前からあつたもののやうで、既に錆が出てゐる。これでは中の服が濡れてしまふからきつと保険でカバーしてくれるだらう。一萬圓くらゐですむのではといふ聲が聞こえ、ほつとしてゐる。