蕎麦尺八茶事

八月二十三日(日)晴後陰
町田の蕎麦屋Kに行き蕎麦會席の會の茶事を手傳ふ。蕎麦を食し尺八の演奏を聴いた後抹茶を飲むといふ趣向で岳母と茶名を持つ家内が茶事を担當、余が点前を爲す。尺八は都山流の工藤煉山氏が本人作の曲や西洋音樂のポピユラー曲を吹く。点前は幾つか細い間違ひはあつたが蛤棚、平茶碗を使つて薄茶を何とか無事点て終へた。自分で言ふのも何だが、手練れのお婆さんや若いがたどたどしい女性が点てるより、男性の点前の方が映えるし有り難みも増すので、素人を相手の席ではよく余が点てることになるのである。此の日は茶道を嗜む人も少なくなかつたやうであるが、幸ひなことに「表さん」だつたので多少氣が樂であつた。因みに余が茶を点てる時は裏でも表でもなく「斜め千家」を称してゐる。斜に構へてゐるからである。
五時過ぎ片付けを終へて辞す。毛氈を引き風炉先を置き棚に道具を取り合はせ、茶花と短冊を飾ること、そして釜の湯温の調整や陰出しのタイミングを計るといつた準備こそが茶なのであつて、準備と片付けに時間と勞力の大半を費やす。余は其のほんの僅かな部分の手傳ひをした丈の話である。岳母が生けた茶花には清源流家元として少し手を加へさせて貰つたが。正式な茶會ではないにせよ、どのやうな氣配り用意が必要かを學ばせて貰ふことが出來てよい經驗になつた。
一時より暑さは大分凌ぎやすくなつたとは言へ、絽の着物を一日着てゐるだけでぐつたりと疲れ切つた。