かをりをりのうた 2

十二月三日(木)雨後晴

春の夜は軒端の梅をもる月のひかりもかをる心ちこそすれ
―皇太后宮大夫俊成〜『千載和歌集

作者俊成は言はずと知れた藤原定家の父で、この歌を収めた千載集の撰者でもあつた。歌はことばも平明でわかりにくいところはなく、ただ「ひかりもかをる」といふ、視覚を嗅覚として感じとる共感覚的な表現が新しい。俊成は「幽玄」を歌の求むべきすがたとしたことでも知られる。梅の季節とは言へやや温んだ夜であらう、軒端の梅の花をかすめるやうに斜めに差し込む月の光は微かに靄を含んで梅の香りを見るが如くである。もつとも「心ちこそすれ」とあつて比喩的になつてしまふのが惜しいと言へば惜しい。光景としては幽玄を感じ始めたところで、作者の主観が出しやばつてレトリツクに堕した感がある。