事故続き

九月十六日(金)陰時々雨
一如庵らしき畳敷きの広間に居る。大きな川に面した窓の欄干にもたれて川面を眺めていると大きな船がコントロールを失って流され、停泊中のボートを巻き込んで川岸に激突する。それ以外にも川には驚くほどたくさんの船が浮かんでいて、今にも同様な事故が起きそうな気配である。私は激突されたボートに人が乗っているのを見ていたので、あれでは助かるまいと思う。ところが、川嵩が急に増して自動車がこちらに向かって流されて来る。見る見るうちに一如庵に突入し、当然水も和室を浸し始める。私は慌てて尺八と荷物を二階に移そうとするが、急な増水ですべての荷物は持ち切れずに二階に上がり、ソファのある居間のような部屋に尺八を置き、下に戻るとちょうどバスが出るところなので乗る。バスは浸水した橋の上を猛スピードで走る。私はもっとゆっくり走った方がいいと運転士に告げるが聞き入れない。橋を渡り切って左に曲がると街に出て、私はそこで降りたいのだがショッピングセンターのところまで連れて行かれる。着いたところは案の定水浸しで、地下道も冠水している。私は意を決して膝までの水に入って進もうと道に出たとたん、向こうから来た車が飛び出した人を避けようとハンドルを切りそこなって壁に激突し、その反対側では車を整備中だった人が、その車がこの事故のはずみでひっくり返った下敷きになって苦しんでいる。私は咄嗟に車を持ち上げて、下敷きになった若い男を引きだすが、すぐに動かなくなってしまう。私は救急車を呼ぼうと携帯で電話をして、藤沢駅近くの、○×というショッピングセンターの横で事故ですと告げる。○×という名は建物の看板を見て知ったのである。ところが、現場には救急車の前にすでに警官が現場検証を始めている。私が「事故の様子を見ていました」と告げると、日本の警官とは思えない、イギリスの警官のような凝った制服を着たインチキくさい警官が私を招き、話を聞く。私は見たことを話したところ、警官は下敷きになった男は車を先頭部分を下にして倒立させて作業していたことが分かっていて、飛び出して事故の原因を作った男は、作業中の男を殺す意図があったかも知れないと語る。単純な事故と思われたものが、実は故意の殺人の可能性が出て来たというのである。私は驚いて、一如庵を出てからの経緯を振り返ろうとすると、今度はラガーマンのような体格のいい刑事が来て事情を聞きたいと言う。その若い刑事は見た感じが良いだけでなく、すでに会ったことがあるような感覚がある。そして不意に、かつて世話になった刑事の息子であることに気づく。随分立派になったね、と声をかけ、お父さんは元気かと聞くと、私のことも父親から聞いていたらしく親しみのある笑顔でええと頷く。息子の方に会うのは初めてなのに、私も父親から聞いた話で子供のころを知っていたような気になっていたのである。そのことを告げると彼も快活に笑い、私は本当に気持ちのいい若者になったなと嬉しい気持ちになる…。