煎餅屋

十月二十四日(月)天晴
茶店でコーヒーを飲んでいると、窓の外、通りの反対側に父と母が煎餅屋を出していた。三田は綱坂の神社の門前である。行ってみると、古い日本家屋の二軒煎餅屋が並んでいる中の、煙草屋のように外から買えるだけの店内のないみすぼらしい家である。右隣の煎餅屋は店も広く、置いてある煎餅も高級そうである。中に入ると通りに向いて煎餅を置いてある一畳ばかりの売り場のスペースと、板敷の六畳くらいの一間と、横に三畳の畳の部屋があるばかりである。私が裏に居室はあるのかと聞くと、きまりが悪いのかふたりして聞こえなかったふりなのかそっぽを向く。まだ六十代くらいの、わりと若々しい両親のすがたである。家には他の間と続く廊下などはあるのだが、そこはウチではないのだと知れた。そして、そっちの持ち主らしい小母さんから、板の間の黒い柱をよく磨くように言われる。家には人が多くて、売り場には親戚の娘とかいう中学を出たばかりのような小娘がいて煎餅を並べていたりする。父に実家の方を売ってこっちに越して来たのかと聞くと、実家はそのままだという。これくらいのものを買う金はあったのだという。十番出身の父と白金志田町出身の母にはやはりこの辺りの方が住みやすいのかとも思う。開店に際し、けっこういろいろな人が来てくれたらしい。野球の選手とか元F-1レーサーとかもいたという。私は都内で飲んだ時などこっちに泊めて貰えば楽だと思う。しかし三畳で三人寝られるものなのか。そもそも寝具が三人分あるのか。なければ買ってやらねばなるまいなどと考えている。