離れの住人

十二月十八日(日)晴
家の塀にボールをぶつけては返ってくるのをグローブでキャッチするという、子どもの頃よくやった遊びをしている。ただしボールは大きめなソフトボールである。何度か目に投げたボールがとんでもない方向に飛んだ。道路の反対側にある古い家屋が三軒隙間なく並んだ建物の敷地の中に入ったようである。その土地も自分の持ちものであることを思い出した。いずれ解体して新しい建物を建てて貸すつもりでいながら、それにもお金が掛るので放ったままにしてあるが、しばらく見ていないので中を覗いてみる気になった。木造の建物の外階段を昇って部屋に入ると、前の持ち主のものらしい衣類や布団などがそのままになっていて、まずはそういうものから処分して行こうと思っていると、突然衣装ケースのような縦型の段ボールが倒れてドスンと大きな音がした。中に死体でも入っているような音である。恐る恐る開けてみると生きている人間が入っていた。眼鏡をかけた六十前後のおじさんである。もちろん裕福そうには見えないが、さほど汚らしくもないので、いつ頃から上がり込んでいるのかを聞くと五日前からだと言う。寒くないのかと聞くと、何とかなると答える。見るとスカイライトのような窓が開いていて外気が入って寒そうである。するとシンガポールの伊藤君が、これは閉めることが出来ますよと、何か特殊な道具を使って簡単に閉めてしまう。寒空に放り出すのも何だから、しばらく居てもいいけれど、火だけは使わないで欲しいと私が言うとストーブは使っていないと言う。見るとそばにストーブと石油タンクがあって疑わしいのだが止む無く私はそこを立ち去る。ところが、次第にこの家を購入するに当ってのさまざまないきさつの記憶がよみがえって来て、当時の家族のことをいろいろ思い出して胸がつまり、どうしてここをもっと早くに建て直さなかったと思って泣けてくるのであった。