三場面

十二月二十六日(月)晴
待ち合わせでやって来たのは酒井和歌子であった。初老とは言えさすがに綺麗である。私は若い頃よりお綺麗になったのではないですか?こうして二人で歩いていると同じ歳くらいに見えて、きっと夫婦だと思われますよと言う。彼女もまんざらではないようだ。すると森田健作が近づいて来て彼女に何か声を掛けるが、親しげにしている私を芸能プロダクションの大物とでも思ったのかすぐに引き下がった。私は、恋人になってくれとは言わないから、たまにこうして二人で会って歩きませんかと聞く。すると彼女はたまにミニスカートも履くけど、と言うのだが見るとすでにミニである。私がチラチラ見ると「内腿に手を入れられているような感じがする」と言う。やがてものすごく長いエスカレーターが現れ、彼女は歩いて昇り始める。私も続こうとするのだが、靴がもつれてうまく歩けず、並んで歩けないのがシャクである。やがて待ち合わせの渋谷に戻り、「振り出しに戻る」だねと言って別れる。
私はひとりでコンサート会場に向かっている。大通りで派手なシャツにストールを巻きつけたM常務に会う。挨拶を交わすと、会社のNが、お二人ともパヴァロッティですかと聞くので私は違うと言って別れる。しかし、ポロシャツにジーンズという、あまりお洒落ではない格好をして来た私は、せっかくだから洋服を買って着替えてしまおうと街中を見て歩くが気に入ったものが見つからずに諦める。そして改めてチケットを見ると開演時間を過ぎている。慌てて会場に入ると、チケット入手に苦労したはずなのに空席が目立つ。舞台上には人数もまばらなオーケストラ団員がいて、数人が奏法を説明しながら演奏をしている。
家に帰ると死んだ伯母が来ていて母と話をしている。私に健康診断の結果はどうだったかと聞くので、この前再検査に行ったが問題はなかった。だけどオールAじゃないと気がすまないと答える。それから伯母たちは叔母のうわさ話を始める。自宅に三瓶という下宿人を、息子の紹介で置くようになったのだが、どうも叔母とあやしい仲となり叔父をヤキモキさせていると言う。昔、情夫と出奔した過去のある叔母だが、母が「七十過ぎているのにねえ」と呆れている。私も従兄弟の友人である三瓶と叔母がそんなことになったとしたら驚きだというようなことを話していた。