三人心中未遂

十二月二十七日(火)陰後雨
海岸線から車で十分ほどのところにある瀟洒な数寄屋造りの建物の中で、四十がらみの上品な和服の女性から手渡されたのは見事な茶碗である。見込みに薄い紅色の花模様が浮かんだ、有名な「花水木」という茶碗で、茶道の教授をしている彼女が私にそれを貸してくれるというのだ。周囲にいた人たちも皆「えっ」と驚く。私はそれを持ち帰り、ワイヤーで固定して地震が来ても割れないようにするのだが、それでも心配で寝ずの番をしていると、くだんの女性が現れる。どうも私の愛人であったようなのである。ところがそこに、私のもうひとりの愛人が現れたために事態は紛糾し、私はふたりを車に乗せて走り、もうどうにでもなれと川に突っ込む。それでおしまいと思ったら、この後三人とも助かったんだってねと誰かの声が聞こえる。私も、なんだか白けた終わり方だねと答えるが、同時に目の前に例の和服の女性がかしずいているので、ああそういうことだなと思う。わたしは酒を飲みながら、「俺は生き恥を晒したからいつだって死ねる」と言う。それを言うと彼女が何でも言う事を聞いてくれることを知っているからである。