触覚アイドル

一月二日(月)晴
アイドルに公認恋人制度というのが出来て、各女性アイドルには恋人が配されることになった。そして、その恋人の男性がアイドルを触ったデータをもとにアンドロイドを作るのである。価格が高いのでよほどの富裕層でないと買えないが、通常レンタル等で触ることが出来る。ただし性行為は禁止とのことである。わたしもたまたま、そのアンドロイドの一人がそばにやって来たので触ってみたが、まったく普通の人間と変らない柔らかさであり、わたしは思わず乳首まで触ってしったが、アンドロイドは少しも嫌な顔をしない。こういうものが出回るのはいろんな意味で「やばい」とわたしは思う。その後旧職場の研究所に行く用事があったので、興奮気味にこのことを告げると、女性たちからは思いっきり白眼視され、特に気が強くてその体つきがわたしの好みであるT嬢はわたしの願望を見透かすように「わたしは絶対データは出さない。一万円でも嫌だ」と言って去る。ところが元の上司のM所長だけは男性だけにその素晴らしさを認め、そうしたものがあることを知らなかった女性のH部長に詳しく説明している。私は教室のような職場に入るが、触感が忘れられずに何をしにここに来たか忘れている。やっとマーケティングのS君と打合せであることを思い出し、彼の作って来た提案プレゼン用の資料をチェックし、今度はそれを補足するためのビジュアルを貰いに知り合いのマーケティングとプランニングの会社に出掛ける。そこでは何人かの業界で有名な人たちが雑談していて、中のひとりは奥さんが芸能人らしいという噂の人だが、その奥さんの写真を見せてやるというので皆が期待していると、わざわざ誰だかわからないように撮った写真だったのでがっかりする。わたしは知り合いの女性と打合せをするが、その際読みかけのしんちゃんの書いたビジネス本を持っているのを見つけ、しんちゃんの素晴らしさを賞賛するのでうれしくなる。彼女はどこかで見たことのある人だと思ったら、先日まで一緒に仕事をしていたNHKドラマ部のTさんだった。彼女はクロエの写真などを使ったビジュアル資料を見せてくれ、わたしはではこれで行きましょうと言って旅に出る。九州各地を周って、ある地方都市の駅で降りる。そこから私鉄に乗り換えて幾つか行った先の駅の近くにあるホテルに向かう。その際電車からホテルまで一緒になった若い女性がいて何となく気になっていた。ホテルに荷物を置いてから歩いて繁華街に出掛ける。国鉄の駅や私鉄から離れた場所に目抜き通り一本だけのさびれた街である。わたしは古本屋を探すがみつからず、市民ホールのロビーのようなところで何か地味な催し物をしている横を抜けてから、切通しにある私鉄の駅の位置を確かめてから北に進みコンサート会場に行くが、そこでさっきの女性がオレンジ色の模様のものすごく派手な着物に着替えて歩いているのを見かける。おそらく同じコンサートであり、帰りは電車を使うのだろう。客はほとんど現地の人なので大半は逆方向に帰るだろうし、電車の数も少ないからホテルまで一緒になるかも知れないという期待が高まる。ところが劇場で舞台挨拶が始まるとそこに他の3人の女性とともに彼女の姿があり、横にはアインシュタインコクトーを足して2で割ったような老人が立っている。彼が監督した映画の上映が始まるのだ。映画の中でその老人がほぼ全裸のまま、何か芸術作品を作っていく様子が延々と続く。やがてそれが理想の女性の肉体像だとわかり完成に近づくのだが、私にはさっきの触覚アイドルとくらべても少しも美しいと思えないのである。