ベルリンの豚

一月二十六日(木)晴
列車でベルリンに向かっている。パリで宿がとれなかったため、急遽行くことにしたのだが、明日の夜にはパリからの便で帰国しなくてはならないので、結構きつきつのスケジュールである。ベルリンから帰る便に替えようかとも思ったが、考えてみると変更できないチケットなのであった。駅に着く前にブランデンブルグ門が見えたので、とりあえずそこに行ってみることにして列車を降り、駅を出て歩きはじめる。当然のことながら周りはドイツ語ばかりで、先年ドイツに行った際英語がまるで通じなかった苦い経験を思い出す。街は殺風景な感じで、やはり旧東ドイツだったからだろうと思う。方角はあっているはずなのに、ブランデンブルグ門は見えなくなってしまった。途中土産物屋のような店で、地図かガイドブックを買おうとするが、いいものがなくて断念する。店には日本人観光客がたくさんいた。それから通りを渡って坂を登りはじめると、右手に岩山があらわれ、そこに豚がたくさんはりついている。これも名所になっているらしく、人がたくさんいる。私たちも近づいてみると、豚のように見えるが、通常の豚のように鼻の穴が上向きに開いているのではなくて、その上に皮膚が伸びて鼻の孔を覆い隠している。その代り、頬のあたりに鮫のような切れ込みがあって、中にはメッシュ状のフィルターがついていてそこで匂いを嗅げるという。

その豚を飼っている農家を訪ねて北海道に行くと、小屋の中に入れてくれて四・五人で話をする。私が冬は寒さが厳しいでしょうと聞くと、寒いというと現地の人から怒られるよと言う。その人は福島から移住したそうなのだが、寒さをこぼすと、現地の人から福島(のような暖かいところ)から来た人間が、文句を言うでねえと怒られるらしい。一緒にいる人が、京都の人も京都の蒸し暑さを暑うてかないまへんなあと言えるのは京都人の特権と思っているみたいだ、というような話をする。私は近くにある自分の家に引き上げると、そこにも六人くらいの客がどっと押し寄せる。そのうち三人はお婆さんである。書庫兼書斎に通して、ちゃぶ台のようなものにお汁粉を出す。皆がつがつと食べ始める。私は白けた気持ちでエクセルの列の幅を調整して本をたくさん入れようとしてうまく行かず、結局書棚の整理を始めるが、客たちは見向きもしない。私は奥の部屋に行き、家内に未詳倶楽部の人たちだというのに本にまったく興味を示さないのはどうかしていると言う。すると家内は、未詳倶楽部でも小島さんのような人は例外なのかも知れないと言う。