破れ傘

五月二十日(土)晴
社長の車に同乗させて貰って会社に戻る。一度自分の机に戻ってから社長室のあるフロアーに行くと、旧役員を含め現役の役員や部長クラスが勢揃いしている。なるほどこうまでしてご機嫌伺いをして昇進を陳情するものなのかと思い、今さらながら自分の迂闊さに呆れる。ところが、その横の広いロビーには若い社員もたくさんいて、その中にかつての愛人Tちゃんが上品な大島紬の着物を着て立っているのだが、それを見ないように通り抜けると、ホールのようなところではブースが並んで茶菓が振る舞われている。おおかた無くなっていたが、残っていた羊羹を一切れ貰って抹茶を飲む。気がつけば周囲には研究所の連中がたくさんいて、何となく気の知れた穏やかな気持ちになる。研究出身の今の社長はやはりこういう雰囲気の方が落ち着くのだろうと思っていると、社長室の周りにウーマンリヴ(!)の人たちが押しかけて大変な騒ぎになっている。社長を助けなければと近づくが、もの凄い勢いで私の傘がズタズタにされてしまう。これは皇室御用達の前原光榮商店の傘なんだぞと言っても聞く耳を持たない。私はもう一本の傘も糸が切れているから二本とも修理に出そうかと考えている。