鰐の池

七月八日(土)晴
居酒屋に入ると朝からおじさんたちが酒を飲んでいた。大事な話があった気がするのだが忘れてしまい、私はハーブティーを註文する。待つ間にトイレに立つ。入ると板敷きに穴が開いているだけの原始的なトイレである。しかも穴から下を見るとそのまま外になっていて、裏にある家の庭に続いている。放尿するとしぶきが確実に隣家に飛び散りそうで、これで苦情は出ないのだろうかと訝しく思う。しかし、よく見ると庭には池があり、そこに巨大な鰐が池の中にいるのが見えた。あまりに鰐が池のかたちにぴったり嵌りこんでいるので身動きもできずにいるのである。鱗も古びていて、何百年もそこにいるような感じがある。ここまで来ると大して餌などやらなくても生き永らえるのだろうかと思う。それとも隣家の人が定期的に餌を運んでいるのだろうか。5〜6メートルはあろうかという巨体なのに、少しも怖くないのが不思議であった。

会社で昼食を取りにエレベーターに乗るとお気に入りのすみれがいて、この日ランチに誘ったものの今日は先約があるとのことで、下に降りると前に取材で知り合ったという外部の30代の男性とふたりで去ったので私は激しく嫉妬する。私は荒んだ心で当てどもなく歩き、RERの駅に着いたのでパリ市内に出ようとそれに乗ることにする。踏切を越えないと乗り口に入れないが、電車は右から左へゆっくりと進んでなかなか渡れない。やっと踏切が開いて列車に急ぐが、後ろの方は貨物だったり普通の車だったりと、なかなか乗れない。焦って走って何とかトラムのような電車に飛び乗り乗車券を取ると、2.4ユーロとあり、結構高いがそもそもユーロを持っているか心配になった。それでも場末の停留所で人に紛れて何となく降り、商店街の入り口でKさんを待つ事にした。一緒に食事する約束だったのを思い出したのである。待つ間通りにあった古本屋の棚を覗く。やがてKさんが来て、もうひとりと三人でどこに行こうかと歩きはじめる。そこに中華ならあるけど、と言って古びた公設市場に入ると、結構客が多くて繁盛している。ここなら美味しいだろうと思い、ちょうど空いたテーブルに、そこにはふたつしか椅子がなかったので隣の使われていない椅子を一言断って移動し、三人が座ると同時に店の女の子が皿に料理をのせ始める。ランチ1340円で食べ放題であることを知り、料理は次々と運ばれて自分が好きな量を皿にのせて貰う仕組みなのである。4-5品続いて運ばれた後食べ始めるが、ふと、どう考えても昼休みの時間は完全に終わっていることに気づく。