独逸と仏蘭西

八月七日(月)晴
ドイツの産業遺跡や戦争遺跡を廻っている。車に乗り、運転手とガイドはドイツ人である。巨大な工場や溶鉱炉、ビルや要塞を見て周る。ビルの壁面から砲身が延び、高射砲がそのままになっているところもあった。途中、道路にバスが停めてあって、見ると運転席はなく、前がむき出しになったまま、レッカー車に繋がれている。後ろから小さな車が来て、「ヨーロッパではギリギリに駐車する」というテロップとともに、本当にぶつかりそうなくらいにギリギリに停め、中から老人が出てくる。老人はあたりの様子を窺った後、レッカー車を運転してバスごと持ち去ってしまう。バスの中には乗客がたくさんいるのだが、皆眠っていて気がつかないようである。それから私たちは高台の工場廃墟跡に行き、車を降りて街を見下ろすところに出た。するとガイドが突然ロケット砲を持ち出し私に向けて発射する。最初から日本人の私を殺すつもりでいたらしい。私は「あっ」と叫ぶが、今度は「先輩」と一緒に街を巡ることにする。現代的な建築の並ぶ街なのだが、幹線道路を除くと道が狭く、先輩は苛立って巨人化して道を跨いで歩く。私も身長50メートルくらいに巨大化して、先輩よりも大きくなってしまう。後について行くが、道路脇のエアコンの室外機などを踏みつぶさないように歩くのは意外に大変であった。しばらく歩くと、日本の中学生の10人くらいが、男女に分かれ、伝統芸能のような身の振りと節をつけたことばで、問答合戦のようなことをしている。東京の地理について明らかな間違った答えを出していたり、それでいて皆真剣なので、かわいいものだなと思う。いつの間にか普通のサイズに戻っていた私と先輩は、出身校でもないのに先輩ヅラして生徒たちにいろいろ話を聞かせる。それを中学生たちは有り難そうに素直に聞いている。良い子たちだと思う。その一方で、私はすぐ横の老舗風の料理屋の看板に、カツオのタタキ定食800円とあるのを見て、昼食はこっちにしておけばよかったと思っている。

フランスへの赴任が決まるが、私の過去を知る役員の反対に合うのではないかと心配している。高校に入ったばかりの長男は日本に残し、小1の娘は連れていくことにするが、それが娘にとって良いのか悪いのかよくわからない。会社で自分の机周りの整理をしていると、今まで大学ノート数十冊に書いてきた日記の、ノートごとのタイトル一覧表が出て来た。懐かしく見るが、日記そのものはある時訳あってすべて破却したことを思い出し、切ない気持ちがよみがえって来た