ロケットと漫才

十一月十一日(土)
出張で行っていた種子島宇宙センターでロケットの発射に立ち会った。無事に飛び立った後、コントロールセンターは建物ごと水平に動き、窓の外がコンクリートの壁になった。皆で成功を喜ぶのかと思っていたら、あっという間に人がいなくなって、残されたのは私ともうひとりだけであった。むしょうに喉が渇いたので何か飲もうと思い一階に降りるエレベーターに乗ると、私より少し若いくらいの人が「子どもの頃テレビで見ていたことが今目の当たりにできるなんて」と感激した面持ちで話しかけてきた。私も同感で、発射に成功したのだからこうでなくてはと思う。一階におりると右が食堂なので左に行ってみると食堂からの出口とゴミ捨て場だったので食堂の方に戻る。白衣を着た研究者らしい人も混じって結構たくさんの人が食事をしている。私はさっき外で昼食を済まして来たので、ここで食べればよかったとは思ったが、あらためて食べる気にはならずに売店を探した。昔風のガラスの前扉のある冷蔵庫があって、コーラやオレンジジュースとならんでビールも売っている。弁当と一緒にビールを買う人もいて、自由なんだなと思う反面精密機器を扱うのに大丈夫なのだろうかと思う。私は百円を入れてから扉を開けてスプライトを取り、おばさんにいくらか聞くと43円だというので50円玉を渡す。7円おつりをくれるが先に入れた100円は?と言うと返してくれた。中々複雑なシステムである。それから私は広場に出た。そこには地上から何層にも気球のようなものが円柱状に連なった搭があり、地上に固定されているもののゆらゆら揺れている。私はそのてっぺんの平らなところで漫才をやることになった。相方はナイツの塙に似ているが「佐藤さん」と呼ばれている。即席のコンビでトップバッターであった。かなり高いところで、見下ろすと眼下には子供連れの家族などを含む観客の姿が見えた。宇宙センターの職員も多い。高くて揺れているのでさすがにちょっと怖いが漫才を始める。途中で変な客が二度ほど妨害しに来たが、どこをどう登って来たのか痩せた警備の人が登って来て対処してくれた。だが、その人があまりに痩せているので私はそのことをネタにしたら結構受けた。警備員はまたスルスルと縄を伝わって降りて行った。私はそれを見て降りる時の方が恐そうだと思う。その後もしばらく喋って終了。終った後でコンビ名を決めようということになり、権蔵と佐七、スッカリ・ポッキリなどの案が出るが今一なので保留とする。次はテレビでよく見るコンビが上にあがることになるが高所恐怖症なのか怖がっている。ドッキリだと思っている人もいて、どうやっても埒が開かないので会場を変えることになった。建物の屋上から話すことになったのだが、それでも怖がっているところにオリラジの中田が颯爽と登場してさすがだと思わせる。私は旅館に戻ることにする。何度か見かけたことのあるこぎれいな仲居に若いツバメがいて、漫才ショーの後落ち合う約束をしているらしいと他の仲居が教えてくれた。お盛んなことだと思うが、好きなタイプだったのでちょっとだけ妬ましい。部屋に入ると自分の部屋を含め至るところでさっきまで観客だった人たちが勝手に入り込んで寝ている。居場所がないので帰ろうと玄関に戻ると知人の女性でお笑いファンの人が待っていて、さっきのステージはとても面白かった、立ち姿も堂々としていて良かったと誉めてくれる。佐藤さんはオドオドしていてまるでダメだったとも言う。役割は籤引きで決めたのかと聞くので、すべてぶっつけ本番だと答える。声が下まで届くか心配で、反応にタイムラグがあったように思うけどと言うと、そうでもなかったとの答え。気をよくした私は、「全体にまあうまく喋れた方だと思います。途中のネタに相方の佐藤さんが本気で笑ってましたからね」と得意気に話す。そうして帰り支度を始めていた。