初仕事

一月七日(日)晴
仕事をしていると電話が掛かってきた。かつて一緒に働いたことのある、先輩の日高氏である。大阪の支店で会社のコレクションの展覧会をやると知り、何とか見たいのだが何とかならないかというのである。私はそのことを知らなかったので調べてからまた電話しますと言って切った。自席に戻ると同僚のN野が私の作った途中段階の香りサンプルを嗅いだらしく、中々良いと誉めてくれる。私はカシスのぬめり感がもう少し欲しいと言うが、滅多に人の香りを誉めないN野に褒められて少しいい気分になる。しばらくして携帯で1-362と押すと日高氏に繋がった。最初よそよそしくアナウンスのような口調で対応し、私だと分かると普通の口調に戻った。福岡の病院で事務長を務める彼は日ごろ多くの苦情やクレームに悩まされているらしい。私はクレーマーじゃありませんよと言って笑う。聞けば展覧会の方も支店の人から連絡があっていつでも見られるとのこと。どうやら、最初に話を聞いた支店の人が、自分だけ入れないことに腹を立てて日高氏に意地悪をしたものらしい。よく大阪には行くのですかと私が聞くと、たまに行くとの答え。いつ行けそうですかと聞くと11月5日から6日だという。私もその時期に出張で関西に行くことがあれば連絡しますと言って切る。私は古い小学校の体育館のようなところで開かれているその展覧会場から出た。脇の駐車場には東京から来た劇団のバスが止まっている。その劇団に知り合いがいることを思い出しながら表通りに出る。バス停で料金を確かめてからバスを待っていたが、百メートルばかり先の角からライオンが現れたので慌てて体育館に戻ろうとする。ところが建物から劇団員がたくさん出てくると同時にライオンやジャッカルが後ろから何頭も追って来る。ジャッカルは私が脅すと引き下がったが、ライオンはそのままである。ただ人がたくさんいて私は人の中に紛れて案外平気な感じである。見ると前に昔つきあっていた百合子がいて、劇団の知り合いとはこの女性であったことを思い出す。私は膝を彼女の太ももにつけて押し倒すような格好で、ここにいれば安全だと思っているの?と聞く。彼女が頷くので私も安全なのだろうと思い外に出ると会社の人もたくさんいて、何故かK林という女性の袖に私の時計が引っ掛かって中々とれない。私は残して来た香りをどう仕上げようかと考えていた。