水の縁

一月三十一日(水)陰時々晴
舌の根も乾かぬうちに不倫である。改築前の古い実家の自分の部屋だったところに連れ込んでのお楽しみである。相手はどこかで会ったことがあるような、若くて肉感的な女性であった。夕方になって私は、悪いけど今日は(家内が)早く帰って来るんだ、と言い、送っていくよと車に乗せる。わざと裏通りの方に車を向け、道の半分が崩れて異様に狭くなった道をトラックとすれ違ったり、一台がやっと通れる立体駐車場のレーンのような道を通ったりしながら進んでいくと、やがて私がひとりきりで自転車をこいでいる。それもものすごい急坂なのだが思いのほか楽に進んでいく。登り切ったところは見晴らしのいい高台の公園で、眼下に運河から急に滝のように水が落ちてその先がトンネルになっているのが見える。海から続いているのだなと実感する。運河には大きな船が次から次へと現われ、滝に飲み込まれるようにしてトンネルの先に消えて行く。それがあまりに素早いので、船だったのか鯨だったのか迷うほどである。私は今日はよくよく水に縁があるなと思いながら、他に水に関して何が起こったかを思い出せないでいるのである。