鷹とカトリーヌ

三月朔日(木)晴
有給休暇が余っていたのでこの日休む。どちらにしても消化しきれないが、せめてもの骨休みである。竹橋の毎日新聞社ビルで昼食の後、国立公文書館で多聞櫓文書を閲覧撮影した後、国立近代美術館工芸館に赴く。嘗ての近衛師団司令部庁舎である。初めて入ったが、中々味のある赤煉瓦の建物である。『名工の明治』展を観る。圧巻は何といっても鈴木長吉による金工の「十二の鷹」である。超絶技巧で作られた十二羽の鷹が修復を終えて製作当時と同じ姿で勢ぞろいした展示は見事の一言に尽きる。精巧であるのはもちろん、迫真の造形が鷹の気高さと勇猛さを表現して余すところがない。250円の入館料でこの素晴らしさ。見ておいて損はない。工芸館を出て北桔梗門から江戸城に入り天守台、本丸跡、三の丸経由大手門から出て、さらに有楽町まで歩き、ルイス・ブニュエル監督作品『トリスターナ』を角川シネマ有楽町にて観る。カトリーヌ・ドヌーヴが無垢な少女から自由と愛を求める若い娘へ、そして冷酷ですべてに絶望した凄絶な美女へと変貌して行く様が全くもって素晴らしい。男女の力関係が逆転していくところも、トレドを舞台にした街路や古い館の調度や、カトリーヌの伯父で夫になる老人のいでたちも、すべてが私好みのヨーロッパ映画の質感、触感を伴っていた。