理不尽な仕打ち

六月十七日(日)
美しい女と恋仲になった。わたしはぞっこん惚れていて、いつもぴったりくっついて行動しないとすまず、一本のベルトで固定したいと言い出して笑われる始末である。わたしたちはショッピングモールの中をそうして歩き回り、途中で殺人事件に巻き込まれそうになるが、彼女の機転で犯人にシャンパーニュを差し入れて何とか危機を脱することが出来た。わたしはますます彼女に惚れこむのであった。まだ入籍はしていないが一緒に住みはじめてもいる。彼女は美しく、従順でやさしい。あまり従順なので意地悪をしたくなるほどである。ただ、頭の片隅にわたしの財産目当てではないかという不安がある。彼女には子どもがいてその子も引きとっている。四・五歳の女の子である。ある時家に帰るとその子が泣いていて、地震があったり虫が来たりして怖かったのにひとりで我慢したと言う。それは偉かったねとわたしが言うと、ご褒美が欲しいという。わたしはちょっと嫌な気分になるがそれを見せずにお金を渡すと大層喜ぶのである。可愛い顔をした女の子だが、わたしは心から愛することは出来ないと感じている。そのあとわたしは彼女を探しに家の中を回ると、いくつかあるゲストルームに知らぬ間に彼女の親戚だという南米系の女性が何人か住みついていて、さらにむっとする。ついに彼女を見つけると携帯電話で話をしている。それだけでも男に電話しているのではないかと、私は疑心と嫉妬で気が狂いそうになる。ふだんわたしに見せない表情をしていたからである。わたしに気づいた彼女はすぐに電話を切って笑顔を見せる。そして、漁業をしている親戚が新しい船を建造したいと相談して来たのだという。わたしは造船会社と造船の資金を貸し出す銀行の借り出し人の査定をする会社を経営している。わたしに査定を甘くしてもらって金を借り出し、その上で安く船を手に入れるつもりなのだろうと思ってわたしが不機嫌な顔をすると、彼女はそれ以上何も言いださない。それで余計にわたしの疑念が強まり、こんなに愛しているのに騙された怒りから殺害を決意する。わたしは大ボスの許可をとってライフルを固定し、大ボスのところに来た彼女を射殺することにした。ところがライフルの照準器が曇っていたので大ボスに新しい照準器を借りたのだが、それをまた壊してしまった。詫びに行くとちょうど彼女もやって来たので、急に愛しくなってまたぴったりと寄り添ってその場から立ち去った。
しかし、結局うまくいかなかったようで彼女はわたしと別れ、今は娘とふたりで暮らしている。ある日中学生くらいになった娘と一緒に展覧会会場に入って行くと、一角のスペースに見たことのある衣類がたくさん吊るされている。近づいてみると、間違いない。彼女がわたしと暮らしていたころにわたしが買い与えていた衣服である。次の間も、その次の間も同様に、衣類や下着までもが展示されている。彼女は、この仕打ちに、嫌いになってからまでこんなことをするなんて、あまりにも理不尽だ、とやっと声を絞り出すようにして言う。わたしは心から、その通りだと思うのであった。