70年代

六月十六日(土)陰後雨、寒し
神保町シアター藤田敏八監督「赤い鳥逃げた?」を見る。「70年代の憂鬱−退廃と情熱の映画史」と題されたシリーズでの上映である。藤田敏八秋吉久美子主演のものはじめ幾つかは見ているが、これは見逃していて初めてであった。桃井かおりが圧倒的に可愛い。危うい魅力があって、美しい。原田芳雄も当然のことながらとても格好いい。客層は当然かなり年齢層が高く、女性が少ない。ちゃちで安っぽいのはこの頃の日本映画にあって当然だが、それでもわたしには十分に楽しめた。「明日に向かって撃て」を想起させる三人組の、破滅に向かってのロードムービー。彼らの格好悪い退廃感が逆に格好いい。今の東京のように小ぎれいですました感じでない、あの時代の街の雰囲気がよみがえって来た。オンボロで貧乏くさい東京だからこそ、反抗的になるか、多少スカしてそっぽを向いていなければいられなかった、感受性の鋭い若者たち。無気力でいながらそんな自分に苛立ち、閉塞感に苦しめられながら、夢や希望を捨てきれなかったあの頃の若者たち…。欲望は充足されないが故に荒々しいエネルギーになり、それが若さの特権と魅力になっていた。リアルタイムでは自分の中学生の頃の時代を、高校時代にATGをはじめとしたいろいろな映画によって追体験し、背伸びしながらそうした時代の感覚に痺れていた。テレビでは傷だらけの天使や前略おふくろ様のショーケンがとにかく格好よくて憧れていた時代である。その後80年代に大学生になった自分は70年代をダサいものとして遠ざけて来たが、あの頃に受けた影響はやはり大きかったと今にして思う。やっと、自分の中での70年代をきちんと振り返ることが出来るようになったのを感じている。