ワイン道入門

九月十七日(月)陰
八月末から九月十日までパリに行って来た。途中二泊三日でベオグラードに行ったほかはパリでのんびりと過ごし、ワインをたくさん飲んだ。今までワインというものに無関心というか、どちらかというと冷淡な態度をとってきた。ワインの蘊蓄をたれるヤカラが嫌いだったし、フランス料理は胃にもたれると思っていたからである。それが最近、前にも書いたが急に日本酒が嫌いになり、ワインが美味しいと思うようになった。それ以来すっかり食生活も変わって、家でも箸よりナイフとフォークを持つ食事の方が多くなっている。
そんな訳で、今回はワインを買って帰ったのはもちろんだが、ワイン周りのものも買った。BHVというデパートがオテル・ド・ヴィルの近くにあるのだが、そこでワインの栓抜きと蓋のカバー切り、それに飲み残したワインの栓と、その際中の空気を抜く道具である。昔そういうものを買いによく行ったボン・マルシェという百貨店がすっかり高級品志向になってしまったのに対し、こちらはわりと手ごろなものを置いているので見るだけでも楽しい。
買ってきたワインを床の間に置いて、尺八を吹いてその音色を聞かせている。ナパバレーのワイナリーのカーヴでグレゴリオ聖歌をかけているのを見たことがあるので、それを真似して美味しくなるようにと祈りながらの演奏である。振動はよくないというので、帰国後そこに置いたままじっと待つ間、自然音の微波動は良い効果をもたらすのではないかと期待しているのである。わたしはまだワインについて何も知らない。この先いろいろ知りたいとは思うが、決してそれを人にひけらかしたり、蘊蓄を語ったりはすまいと思う。詳しくなりたいとか、ソムリエ並みになりたいなどとは金輪際思ってはいない。高いワインを買うつもりもなく、ただ少しでも手ごろな値段で美味しいワインを飲みたいというだけなのである。